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第1話 尊敬していただけ


:Side いのり


 私立ルノワール魔法学院。

 それは魔法にけた優秀な生徒だけが入れる狭き門。

 そんな狭き門にそこそこ魔法が使える私――みち()いのりは今年合格して、入学した。


 ……入学したのはいいんだけど、ルノワール魔法学院は女子校。なかなか馴染めずに私は今でも友達が一人もいない。


 興味がある事と言えば、次の試験で合格する事と趣味の魔法書を読む事くらい。今、学園を賑わせている噂の人物なんて、この時はまだ少しも興味が無かった。


「ねぇ、聞いた? 全教科満点で首席で合格だって。入学試験、あんなに難しいのに……」


「美人だし、女でも惚れちゃうよねー」


「分かるー」


 首席で合格したのは凄いけど、そんなに騒ぐことなのかな……?


 何となく疑問を抱きつつも、その日は授業を終えて家に帰った。



 それから三ヶ月後。闘技場。


 今日の為に魔法の勉強はしっかりしてきたから、バッチリだ。


 けどやっぱり、緊張はする。


「ワアアアアーッ!」


 多くの歓声が上がる。既に私の周りの観客席には人がぎっしり詰めかけている。


 だって、こんなに沢山の人に注目されてるんだもん。


 そんな私の緊張とは裏腹に、冷静沈着な人物が一人、いた。


 ――鹿島かしま柚華ゆずか。この私立ルノワール魔法学院を首席で入学した人物だ。一躍時の人となるが、本人はさほど気にしていない。いつもクールで一匹狼みたいな性格。私と同様、友達が一人もいなかった。


 ストレートな黒髪を長く伸ばし、あおい瞳は全ての人を射ぬいてしまうんじゃないか、と思うほどに強く不思議に輝いている。



「路ノ瀬さん、どうぞ!」


 私の番だ。


 ううっ……緊張する……!


 手に力を集中させ、念じる。そして、魔法を唱えた。


「シャイニング・レイン!」


 手を前に翳すと光の雨が広範囲で降り注ぐ。それはとても綺麗で眩しく、試験官も多くの観客も口を開けていた。


 試験の一番最後。

 みなが疲れはて、帰りたそうにしていた頃。ようやく彼女の名前が呼ばれた。


「鹿島さん、どうぞ!」


 前に出た柚華は弓を構える。


(鹿島さんっていうんだ……)


 呆然と私は彼女を見つめる。

 一目惚れしそうなくらい美しい。ちょっぴり柚華の魔法を見るのが楽しみに思えた。


 姿勢は良く、弓を持つ手は垂直。美しいをここまで形にした人は柚華一人しかいないだろう。


「ウィンド・ストーム!」


 一気に闘技場全体が嵐のような突風に包まれる。威力の高い風属性の弓魔法。私の光属性魔法とは優勢でも劣勢でもない。敵対はしない。


 今度は何が始まるのかと思うと、目の前から突如現れたウルフ三体を無属性の結界で防御した。


「バリア!」


 柚華の周りが透明なドーム型の結界で覆われる。

 ウルフは結界に当たって死んだ。


「合格!」


 試験官が采配を振るう。


 刹那、少しだけ彼女は微笑んだ。

 そんな彼女の笑顔が《《可愛い》》と思ってしまった。


 その日から私は鹿島さんに対する認識が憧れの人、となった。尊敬してて、カッコよくて、時折可愛さもあって、仲良くしたい人。けど、違うクラス。関わりを持ちたくても、距離が遠すぎて、なかなか仲良くなれない。どうしたものか、と悩む私。

 そんな時、職員室から出てくる彼女を偶然見つけた。


「失礼します」


 いつもの事ながら凛としている。

 カッコいい……。

 私は目を奪われた。


 すぐに彼女は私の存在に気づく。


 目が合った。


 自然と心拍数が上がる。


 勇気を出して、私は彼女に告げる。


「あ、あのっ、よ、よろしくお願いします!」


 噛みながら、頬を真っ赤に染めて。


「よろしく」


 彼女はたった四文字を無表情かつ淡々と告げた。

 そのまま彼女は静かに立ち去った。


 なんで……? なんで私だけがこんなに恥ずかしがりながら、顔を赤くして「よろしく」って言わなきゃいけないの?

 なんで鹿島さんは無表情で冷静で居られるの? おかしいよ。



 柚華が立ち去った後の誰も居ない廊下。


「ああああー名前言うの忘れたよ! 鹿島さんの下の名前、なんて言うんだろ。気になるー!」


 そんな叫び声が木霊こだまする。


 その日はあまり眠れなかった。


 勿論、試験の結果は合格だった。


 いつか鹿島さんと魔法で対決してみたいなー。


 そんな思いを胸に瞳を閉じる。

 でも、鹿島さんの下の名前が気になるのと彼女への思いが強すぎて眠れない。


 私は彼女を尊敬していた。


 だけど、その尊敬が恋愛感情に変わる日がそう遠くない事を私はまだ知らない――。



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