第六話 座学
「やっぱり、カルレトは美味いな。」
「確かにそうですね。」
朝食は昨晩の残りだった。また朝食中の話で師匠はどうやら、一週間は宮廷魔術師の仕事が休みになったということだった。
その後、授業のために外に出た。
「そういえばエリミオレ、翼才って知っているか。」
「知りません。何でしょうか?それは。」
「翼才と言うのはな――――」
師匠が木に掛けられた板に手を向けるとそこに魔力が集い文字と絵を構成し始める。
「この世の知的生命体の9割が潜在的に持っていて、絶対神たる女神様より与えられし恵みとも生物の進化の形とも言われる、不思議な力のことだ。」
話し切ると共に板に書かれた字と絵がはっきりする。
そこには『覚醒者の特徴』という文言とその横あるのは朧げな天使の翼を生やした人間の絵だった。
「へえ~、初めて知りました。」
僕が感じたことを言葉にすると、師匠は得意げになりさらに勢いよく話し始めた。
「で、この潜在的に持っていると言うのがな、確かにその覚醒の可能性は9割の奴が持ってるんだが、実際に覚醒するのは少ないときには1割、多いときでも3割程度なんだ。」
「なるほど、確かに少ないですね。」
「しかぁし、修行の開始から1ヶ月で魔法を使えたお前だ、きっとものすごい翼才を秘めているし、覚醒させることもできるだろう。頑張れ!」
「あ、ありがとうございます。それで、その絵については説明しないんですか。」
「ああ、忘れるところだった。この絵について説明するとな、翼才を覚醒させたものは背中に翼が発生するんだ。」
「それは、かっこいいですね。」
「今の俺に話せるのはここまでだ。興味を持ってくれたようだし、次に来るときにはもっと調べて来るから楽しみにしていてくれ。」
そう言って板に手を向けると、字と絵を構成していた魔力が散っていき、新たな字を構成し始めた。
暫くして、その字が読めるようになった。そこには『空気中魔力の濃淡』と書いてあった。
「よし、次は場所ごとの魔力の濃淡による、魔法の威力等の違いについてだ。」
魔力の濃淡、その言葉を聞いてもいまいちピンと来なかった。
「あの、魔力の濃淡って魔力はどこにでも同量あるものではないのですか。」
疑問を口に出して聞いてみた。すると、
「ああ、確かに俺は魔力とはどこにでもあるものだと教えたな。だが、どこにでもあってもその量には違いがある。」
「そうだったんですか。それで、その場所ごとの魔力の量の違いによってどのような違いが発生するんですか?」
「それは、簡単な話でな大気中の魔力が濃ければ濃い程魔力を集めやすくなり、それによって魔法の詠唱が簡単になる。」
「なるほど」
聞いた瞬間、合点が行ったつまり、空気中の魔力濃度が濃いということはその分魔力の量が多く、少ない場所と比較して魔力が集める際の労力が少なくて済むということだろう。
「また、魔力を集めやすいということは、多くの魔力を魔法に込めることができる、つまるところ威力が増すということだ。」
ここまで聞いたところで、ふと 気になったので聞いてみた。
「つまり、戦いを行うなら魔力濃度の高いところでするべきだ。と、言うことですか?」
「ああ、まあそれもそうなんだが…相手も魔法を使う奴だった場合、それは辞めといたほうが良いかもな。」
「確かにそうですね。気をつけます。」
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その後、幻を見せる魔法の構築式と詠唱文を勉強していると森の方からドタドタとかけてくる音が聞こえてきた。
「何でしょう?」
「さあ、猿か何かじゃないか。」
「ちょっと見てきます。」
気になったので森の方に近づいていくと、
「誰かぁぁぁ‼」
「えっ⁉エル? がはっ!」
助けを求める声とともに森から飛び出してきたエルにタックルを食らってしまった。そして、そのまま、心なしかゆっくり、ドサッと地面に倒れ込んでいく僕なのであった。