第十話 『森林からの脱出』(中) 無彩の幻影
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「さあ、さっさとこっちへ来い、今ここでできるだけ楽に殺してやる。」
隊長格らしい少し豪華な鎧を身に着けた兵士が真剣な、油断のない目つきでこっちを睨んでいる。その顔をよく見ると、仲間を殺した兵士ではないことがわかった。
「わかりました今からそっちへ行きます、ただその前に、一つ疑問があるんですけど・・・」
戦いを避けるために、僕は背中側に隠した左手に魔力を集め始め、
「良いだろう、答えてやる。」
「仮にさっき逃げていたらどうなっていたんですか?僕、こういう疑問はしっかり晴らさないと気が済まない性分なもので。」
集めた魔力で左手に魔法陣の原型を描き、
「なんだそんなことか、おそらく貴様は裁判所へ連れて行かれ、そこで先ずは拷問刑に処されるだろう、」
その兵士は怪談でも話すかのような表情と声で語り始めた。
「そ、そうなんですね。」
「そして、拘置所に移され、死に至るまで拷問されていただろう。」
「よくわかりました、そんな恐ろしいことになるところだったんですね。」
つまり僕が苦しまないようにしようとしてくれたということだ。なんと優しい兵士なのだろう、しかし僕は死ぬわけにはいかないから。魔法陣を気取られないように少しずつ調節し、
「あの、申し訳ないんですけど、最期に1つだけ言わせてもらえないでしょうか。」
「なんだ?」
何時の間にか兵士は臨戦態勢を解き穏やかな様子になっていた。それに対して僕はもしかしたらという僅かな期待を込めて涙ながらに、
「僕は、邪教なんて信仰してない!王とあなたの上司が罪をでっち上げたんです!そして、故郷には義弟と婚約者を始めとする家族がいるんです!だから、僕を見逃してもらえないでしょうか?僕はただ・・・」
「残念ながら、貴様の要望を聞き入れることはできない、十分な証拠が出揃っているし、それを抜きにしても、客観的に考えて魔族のような黒髪である貴様と王とでは王のほうが信頼に値する。悪いが仕方のないことなんだ。わかってくれ。」
悲しげな目つきで兵士は剣を構える。
「さあ、せめて痛くないように一瞬でその首を斬ってやろう。」
僕は、(理不尽だ!)という気持ちと、(やっぱり)という2つの気持ちを抱え、左手を前に出しながら兵士を見据えて言葉を紡ぐ。
「そうですか、残念です。『無彩の幻影よ我が身を覆い、隠し給え。【透色幻影】』」
素早く、左手を突き出し詠唱文と共に魔法陣を展開する。
「な!馬鹿な奴は何処へ⁉」
瞬間、僕の体は透明になり、兵士達は揃いも揃って当惑していた。
果たしてエリミオレは森から脱出できるのか。
そして、良い人な兵士はどうするのか。