第九話 蔵の中 part2
「エル!大丈夫!?」
「おい、大丈夫かよ。」
エルが転んでしまったのを見た僕と師匠はほとんど同時に駆け寄った。一方・・・
「エルさん!今回復魔法を!いやぼくは魔法が使えないんだった。どうしよう、どうしよう!」
「おいシェイド、しっかりしろ。」
シェイドは顔面蒼白になりおろおろと右往左往し始めてしまった。つまり転んでしまったエルを起き上がらせて手当てをすると同時にシェイドを宥めなければならないということだ。
「師匠、僕がシェイドを落ち着かせますから、師匠はエルを。」
「わかった。シェイドの方は任せたぞ。」
ひとまず回復魔法が使え、分析眼による怪我などの発見ができる師匠にエルのことを任せ、僕はシェイドを落ち着かせることにした。そして、僕はシェイドの方へと向かい、
「シェイド落ち着いて大丈夫だから、転んだくらいで死んだりはしないから。」
シェイドは今にも死んでしまいそうなほど顔色の悪い顔をこっちに向け涙を流しながら言葉を紡ぎ始めた。
「エリミオレさん、そうかもしれません。でも頭から転んでしまって、かりに死ななかったとしても頭に異常が残ってしまったらかわいそうすぎて・・・」
そこまで言い終えたところでしゃくり上げ始めてしまい何も喋れなくなってしまった。
「確かにその可能性もあるかもしれない、だけど師匠は回復魔法を使えるからきっと大丈夫だよ。」
僕がシェイドの背中をさすりながら落ち着かせながら師匠とエルの方を見ると師匠がエルを起こして膝などが見せるように座らせ、傷の有無や骨が折れていないかなどに関して分析眼を用いつつ慎重に調べていた。
「取り敢えず傷はないが、打ったところが青くなるかもしれないがこのくらいなら回復魔法はいらないな。」
「ぐすっ う…ん」
一方のエルはやはり転んでしまった際にどこかを強く打ってしまい痛いらしく、シェイドほどではないにしろ泣いていた。
「ほらシェイド、エルは大丈夫だってさ。」
一応、エルは大丈夫だとシェイドに伝えるが未だにしゃくり上げながら泣いているシェイドは言葉を返せなかった。そんなシェイドの背中を僕はさすりながら言葉をかけ続ける。一方の師匠もエルに言葉をかけつつ分析眼で傷や異常がないか全身くまなく確認し続けていた。
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そうしてしばらく経つとだいぶ落ち着いてきたらしくエルは泣き止み、シェイドもしゃくり上げなくなってきていた。
そして、分析眼によるエルの怪我の確認を終えた師匠は安堵した様子で話し始める。
「一先ずは大丈夫だろう。エル、立てるか。」
「うん、立てるしもうあんまり痛くない。」
小声ながらもう痛くなさそうにエルは呟く、遠目に見てみると確かに傷は無かった。
「そういえばエリミオレ、シェイドの方は大丈夫か?」
ふと、師匠がこっちを向いて確認してきた。
「はい、大丈夫みたいです。だいぶ落ち着いてきたようなので、」
「そうか、それならいい。それじゃ、シェイドと一緒に一旦こっちに来てくれ。」
「わかりました。シェイド、歩ける?」
聞いてみるとシェイドは腫れぼったい目をしながら答えた。
「歩け…ま…す。」
そうして僕とシェイドは師匠の方へと歩き、先ほどエルの持っていた本を取り囲むようにして地面に座った。
「取り敢えずこの本をどうするか、というのが最大の問題だな。取り敢えず元の場所に戻すべきだと言う奴は居るか。」
するとシェイドがおそるおそると言った具合の様子で手を上げた。
「ぼくはぜったいに戻したほうが良いと思います。さっきだってエルさんが転んでしまいましたし呪いとかぜったいかかってますよ。」
シェイドは相当必死であるらしくしだいに早口になってゆく。それに対してエルが元気に手を上げる。
「わたしはとりあえず開いて見てみるべきだと思う。だって中身が気になるから。それに・・・」
議論が白熱している中、僕は僕たちに取り囲まれている本をじっくりと眺めていた。見てみるとその本は白色の表紙に金の縁取りがされていて、表紙の中央には青色の宝石が埋めこまれていた。その上、長時間放置されていたにも関わらず傷がなくさながら新品のようだった。
その瞬間周囲が歪み始めた。何が起こっているのか、理解できないまま僕は懐かしい幸せな過去の夢から現実へと引き戻されていった。
第一章完結です。第二章は暗くなるので心の準備をしておいてください。