第九話 蔵の中 part1
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師匠に引きずられて入った蔵の中にはいくつもの本棚が並んでいた。しかし、その全てが空だった。そして、床にはあまり埃が積もっていなかった。
「どういうことなんでしょうか。こんなに本棚があるのに全部空っぽだなんて。」
「現時点では分からん、ただ、この蔵の中の様子からある程度の見当は付く。本棚には確かに本のあった痕跡はある。それに、数千年前から施錠されているにしては床に積もった埃が少なすぎる。これがどういうことか分かるな?」
師匠が真剣な面持ちで聞いてきた。確かに大体の憶測はできる。本が確かに置かれていた痕跡があるにも関わらず存在しない本、そして、明らかに少ない床の埃。これらから推測できることは・・・
「つまり、僕たちがこの蔵を発見する前に何者かが侵入していた。そして、その侵入した何者かが本棚にあった本を持ち去った、そういうことですね。」
「ああ、そういうことだ。そして、扉は数千年前レベルの施錠魔法で封印されていた。つまり、本を持ち出した人物は壁に穴を開けるなり、転移の魔法で入るなりしたと考えられる。」
侵入して持ち出したのはその日の暮らしに困った盗人とかだったのかもしれない、でも・・・
「しかし、残念でしたね。もしかしたら、古代のすごい遺産とかがあったかもしれないのに・・・」
「まあ、こういう人が期待しがちなものは大体こんなもんだ。」
と、いった具合に会話をしつつ扉の方に体を向けて歩き始めようとした。その瞬間。
「いや!だって中身が気になるじゃない!」
いつの間に入っていたのか。たったったっ、という走る音とともにエルが何やら分厚い本を持ってエルが本棚の隙間から出てきた。
「確かに気になりますけども、もし呪いの本とかだったら怖いじゃないですか!もともとあった場所にもどしたほうがいいですって〜!」
そしてその後ろから今にも泣きそうな顔でエルを必死に追いかけるシェイドが現れる。しかし、無情にもその距離はどんどん離れてゆく。あれ、もしかしてこっちに気づいてない?
「何だありゃ?というかあれ、ここの本棚にあった本じゃないのか⁉」
「確かに、そうですね!」
本棚が大量に並ぶ蔵の中で本という時点で気づくべきだった。言われてみれば、分厚さだけでなくいかにもな古さもその本は持ち合わせていたのだ。
「よし!エリミオレ、取り敢えずエルとシェイドを止めてあの本を確保するぞ。」
そう言うや否や、師匠は一つの本棚を中心としてぐるぐると回っているエルとシェイドに向かって駆け出した。
「わかりました!」
僕も師匠の後を追って走り始めた。しかし・・・
「あっ!お兄ちゃん、それにおじさん!みてみて、このくらのおくの方で1つだけ見つけたの!」
エルと目が合い、僕たちに気がついたエルは嬉々として手に持っていた本を掲げ、見せびらかしながらこっちに走ってきたのだ。
「えっ!エルさん?そのような走り方をされると危な・・・」
「あっ!」
シェイドが青ざめながら警告をしようとした時にはもう既に手遅れだった。エルはズルッという音と共に頭から転んでしまったのだ。
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