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二、戸惑い

 


「と、とぶ?何?どこ?アンタ誰?!」



 あまりにも非現実的な状況である。


 今すぐ窓から飛び降りてみるべきだろうか、それとも取り敢えずこのベッド留まるべきか。叫んで助けを呼んでみるか…


「煙草の灰、落ちますよ」  


「!」


 声の主は思っていたより近くにいたようで、レースの隙間からぬっと四角い陶器が差し出された。


 落ち着いた声色でゆっくりと話しているけど、誰なの、これどういう状況?私、誘拐された?…アラサーで?


 差し出されたまま止まっている皿を凝視しながら、なんとか指に挟まっていた火種を押し付ける。



 担いで攫うには向かない高身長女を?貧乏で、高校のあずババジャージを着ているような干物を?否、誰が誘拐したいだろうか。


 もし目撃した人がいるのであれば、さぞ担がれた私が目立っていたことだろう。なんなら胸元と腰部分に『槙村』とデカデカ刺繍してある。通報してほしかった。



「それからあなたの質問にお答えするなら、そこは僕のベッド上です。今からそちらに行きますねぇ」


「ちょっと待って来ないで?!」


 緩い感じで話されるとこっちの気が抜けてしまいそうになるけれど、こんな訳の分からない場所(ベッドの上)で、知らない男、私はジャージにノーブラ。仮にも女。何かされないとも限らない。


 急いで枕元をまさぐって、青ざめた。

 いつもの感触がない。スマホがないことに今更気づく。


 いや、バカ…そりゃそうだよ…ベッドサイドの充電されてるスマホまで持ってきてくれる誘拐犯は絶対にいない。


「警察呼べないじゃん…」


 冷や汗が急に吹き出し、なにか武器になる物は、と目に付いた一番近くにあったごつい燭台を引っ掴む。想像以上に重い。これなら致命傷を与えられるかもしれない。


 来るなら来い、入ってきたらコレで頭カチ割ってやるわ。



 カーテンがはらりと上がって、



「ケーサツって何ですか〜?」



 燭台が手から滑り落ち、膝を伝って男の方へごろりと転がった。


 ーーなにこれ。 

 クハッと変な息が漏れる。


 心臓が、激しく痛い。



「うーん、少々、妬けますねぇ」


 急な声色の変化を感じ、なぜかまるで処刑宣告を受けたような恐ろしさがしたためぱっと男の方に目をやると、首を傾げてベッドを這うようにこちらに近づいてくるのがわかった。


「ひッ!」


 急にホラー展開すぎる。

 逃げたい、今すぐこの場から!でも、待って無理、何が起きてる?動けないんだけどこの痛み何なの?!


 経験したことがない強烈な痛みが胸から全身に広がっていく感覚も恐ろしくてパニックだ。



「それ以上来たらッ…ぶ、ぶっ飛ばす…!」


 何というべきか考える間もなくとりあえず叫ぶと、男は張り詰めた緊張感を緩めてフフッと楽しそうに笑った。


「すみません、怖がらせてしまいました?僕を怪しいと疑う貴女の感覚は実に正しいと思います。でも、今は火急の事態なので貴女に配慮している余裕はそこまで無いんです」


 そう話しながら近づいてきて、とうとう目の前まで来たところで、私は初めて男の顔をはっきり視認した。


 落とした燭台は拾い上げられ、目の前でぷらぷらしている。


 そして、ひとつだけ確信した。


 ーー私この男知らないわ、と。


 切りそろえられた艶やか黒髪。ほっそりした形のいい顔。伏せられた切れ長の目。影を落とす睫毛は長く、鼻梁は綺麗な線を描いて唇のそばまで上品に伸びていて、つまり、とんでもなく整った顔をしていた。


 一度見たら忘れない美形だ。芸能人かよ。いや、芸能人より整ってるんじゃ…


 ボーッと見ていたら、伸ばされた指先が私の頬に微かに触れ、反射的に肩が上がった。


 男は残念そうに眉を落として静かに手を引いた。


「お名前は?」


「・・・」


「それじゃあ僕から自己紹介といきましょう。

 僕はメルキオール・バキルツィス。大魔法使いです。恐らく貴女を異世界から召喚してしまったようです」


 微笑を浮かべて言い切った。


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