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第三章 第4話 

 灯りひとつない街道を粗末な外套を纏った男が弱々しく歩く。それを見つめながら梟が鳴いている。

「そこで止まれ」

 頭上から降った声に、男は村の門の前で立ち止まった。

「引き返せ」

 屋根の上から二人の男が松明を掲げ、もう二人が弓矢で威嚇してくる。

 外套の男は口元をモゴモゴと動かした。

「何言ってるのか聞こえないぞ」

  弓に番えた矢が向けられても、動じる様子なく、首を抑えながら訴える。

「助けて。息ができないんだ。助けてくれ」

「こいつ感染してるぞ」

「早く射殺せ!」

「馬鹿! 門の前で死なせたら、死体はどうすんだ」

「そ、そうか。おいお前さっさと何処かへ行け!」

  屋上の男達は眼下のことに集中しすぎて、後ろからアルフェが音もなく近づいていることに気づいていない。

 外套の男には全て見えた。

 一人目の首に手刀が叩き込まれ、二人目は首に絡まった腕によってへし折られた。

 三人目が気づくも、胸部に打撃をもらって崩れ落ち、四人目は外套の男のそばに、頭から落ちて動かなくなる。

「周りに気づかれていないな」

 外套を脱いだディアスは屋根の上で佇むアルフェに手を伸ばした。

「気付いた気配はありません」

 屋根に引っ張り上げてもらう。

「先程倒した四人だけが外にいて、残りの賊は教会にいます」

 言われてみると、教会以外は全て暗闇に包まれている。

「ここまでは問題なく来れた。行くぞ」

  ディアスとアルフェは一旦別れ、別々に教会へ足を運ぶ。

 教会の扉に近づくと、隙間から光が漏れ、中から喧騒と嬌声が漏れ聞こえていた。

「おい、盗賊ども!」

  扉を貫く勢いで声を上げると、教会内の喧騒が止んだ。

 隙間から漏れる灯りに照らされた影が動き回り扉が開かれる。

 赤らんだ顔の野党達が鎧を着る暇もなかったのか、武器だけ持って出てきた。

 教会の奥では女子供の姿が見える。詳細を確かめようにも盗賊達が邪魔だ。

  ディアスは盗賊達を一瞥し、中央にいた男に見当をつけた。

「お前、腰に立派な長剣を提げたお前だよ」

「俺はお前のことなど知らないぞ」

  ディアスに指された男は長剣の鞘に手を添えて一歩踏み出す。

「お前、王都の近衛兵だろ」

「証拠は?」

「長剣の拵え。それと板金鎧が何よりの証拠だ」

 長剣の男が笑うと、盗賊達も釣られて笑い出す。

「武具を持っているだけで近衛兵になれるなら、死にかけの王の王冠が欲しいぜ」

 盗賊達が更に声を大にして笑い合う。

 ディアスも負けないように笑った。

「王が病の床についているのを知っているのは一部の人間のみ。もちろん近衛兵も含まれる」

「……こいつを殺せ」

 長剣の男が剣を抜いた。命令を聞いて酒が頭に回っていた盗賊達も手に持った刃をディアスに向ける。

  ディアスは五対一でも恐ることなく、槌を右手に持ち、左手で体の前面を守るように傷をつけた盾を構えた。

 手下の得物は斧や長剣だが、一人だけ置いてきたのかナイフを持っている。

 斧を持った男が走り出し、斧を振り下ろしてきた。

 ディアスは丸盾の取手をしっかりと握りしめ、斧がぶつかる衝撃を受け止める。

 何度も受ける事で、攻撃と攻撃のタイミングを測り、振り下ろされた斧を盾で打ち払うと、無防備な男の顔面にメイスを振り下ろした。

 次は剣を持った賊の突き。滑らせるように脇の下に盾を潜り込ませ利き腕を封じると、ガラ空きの腹に槌を叩き込む。

 膝が折れ悶絶する二人目の後頭部を粉砕。

 残りの二人は酔いが覚めたのか、数の優位を活かして前後を挟む。

 同時に距離を詰めてくるので、剣を振りかぶりながら迫る手下に盾ごと体当たりし、首の後ろに腕を絡めると、百八十度向きを変える。

 ナイフの勢いは止まらずに、賊の背中に深く突き刺さった。

 仲間を刺して動揺しているのか、隙だらけの最後の賊の頭部を槌で強打する。

 四人を倒し、近衛兵の頭目を見ると、彼の持つ剣の切っ先が細かく震えていた。

 一歩近づく度に頭目は一歩引き、ついに無防備な背中を晒した。

 教会内の村人を人質にしようとしたのかもしれないが、振り返った途端足が止まる。

 ディアスが戦っている間、アルフェが教会内に潜入し、村人達の盾となっていた。

 頭目はディアスとアルフェを交互に見ていたが、意を決したようにアルフェに向かおうとしたところで追いつき、容赦なくメイスを振り下ろす。

 教会内の安全を確保すると、アルフェに呼びかけられた。

「ディアス様……」

  アルフェについていくと、一人の女性が倒れている。野盗から解放されても彼女は起き上がれそうにない。

 酷い暴行を受けたのか、顔は血塗れで大きく腫れている。

  アルフェが耳打ちしてきた。

「見えるところだけでなく、全身を殴られているようです。このままでは大修道院まで持たないかと」

 ディアスは迷っていたが、目の前の女性を救う為、右手の布を解く。

 手の甲の紋章を見た村人達は、目前で行われる奇跡としか言いようのない行為から、目が離さないでいた。


「よくやってくれました。ディアス」

 隣に立ったパトリアップに労いの声をもらう

 野盗を全滅させた後、ディアスは放置されていた荷車と馬を繋いで即席の馬車とし、そこに生き残った村人を乗せて、大修道院に帰ってきた。

 オルロンだけでなく、パトリアップにも出迎えられる。

 パトリアップには相談せず大修道院を留守にしたので、怒られるかと思いきや、むしろ賞賛の言葉を貰えた。

「貴方は窮地に立つ民を救ったのですよ。そんな騎士を責める人間など一人もいません」

 瀕死だった村人はディアスの力により傷ひとつないが、今も尚涙を流し続けていた。

「騎士? 俺がですか?」

「部屋に騎士の証を用意しておきました。是非それを着てもう一度私の元へ来てください」

  自室に戻るとそれは部屋の明かりを反射し、輝きを放っている。ディアスは袖を通すと、弓の大陸で感じた重苦しさは全く感じられなかった。

「まぁ。とても似合っていますよ」

  エヴァルネ神聖騎士団の鎧を身に纏ったディアスを、パトリアップだけでなくオルロンも何処か温かい眼差しを向けていた。

 大広間ではパトリアップとオルロンと向かい合わせるように、自力で歩ける民達が集まっている。

 ディアス達が助けた村人達もその場に集まっていた。

 村人達の眼差しは雲の上の存在を見ているようだ。

 耐えきれずに一歩後ろに下がろうとすると、パトリアップが柔らかく右手を握ってくる。

「ここで退いてはなりません。折角の信頼を失ってしまいます」

「大司教様。この集まりは一体……」

  パトリアップは手を上げ、民の視線を一身に集めた。

「お集まりの皆さん。今日は私達にとって朗報があります。私の命を守って眠りについていたシャイラーオ様の力が遂に目覚めたのです」

 多くの民は顔を見合わせている。その中でディアスが助けた村人達は見当がついているのだろう。囁き合いながら右手に視線を送ってくる。

「もうご存知の民もおられるでしょう。そう太陽神の紋章は彼に宿ったのです。ディアス」

  促され、右手の籠手を外すと、パトリアップに恭しく手の甲の布を外してもらい、右腕を掲げられる。

 締め切られた大広間に陽の光が降り注いだ。

 その場にいた民はもれなく平伏し、パトリアップとオルロンも膝をつく。

「彼、ディアスこそが私の跡を継ぐ、次期大司教なのです」

 顔を伏せたパトリアップの言葉には有無を言わさぬ強い力が含まれていた。

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