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第三章 第3話 

「本当ですか。騎士様が助けてくれるんですか?」

「任せろ。オルロン団長、馬を一頭貸してください」

「ならん。単騎で勝算はない。それにお前は騎士ではないだろう。部外者に馬を貸すほど余裕もない」

  騎士、部外者。先程の村人が聞いたら卒倒しそうな単語だったが、幸いにも目の見える範囲にはいなかった。

「でも行かなければなりません」

「討伐隊を呼び戻す」

「それでは時間がかかるではありませんか」

「既に襲撃されて何日も経っている。残っている村人が生きていると?」

「決めつけはよくありません。実際に確かめてみるべきです」

「先日まで引き篭もっていた男の台詞と思えんな」

「ここまで来たんだ。閉じこもっているつもりなんてありません」

  決意をまっすぐ受け止めるように、二人は視線を交差させる。

 折れたのは意外にもオルロンだった。

「––討伐を任せよう」

「感謝します」

「ただし、出発は明日だ」

「それは……」

「空を見てみろ」

  見上げると、既に陽は傾き、シャイラーオは束の間の休息に入ろうとしていた。

「夜は悪しきもの達が活性化する。その闇の中を駆け抜けても、悪戯に消耗するだけ。だから明日の夜明けまで待て。こちらからも最高の助っ人を用意しておこう」


 ディアスは朝が大修道院を照らす前に起きていた。ベッドに腰掛け、武具を点検する。

 槌の柄に巻かれた滑り止めの革を確認し、盾の留め具に緩みがないか確かめる。

 朝日が完全に昇ると同時に、盾を背負って部屋を出た。

 厩舎に向かっていると、オルロンに呼び止められる。

「ディアス。こっちだ」

 オルロンは正門の前で立っている。

「意地でも鎧は着ない気か」

「今の私は元騎士ですから」

「これを持っていけ。干し肉と水、それから薬だ」

  背嚢を受けとり肩にかける。

「馬は貸してくれないのですか」

「我が騎士団の精強な軍馬でも二日かかる。だが彼女となら早く辿り着けるだろう」

「半日で到着できますよ。ディアス様」

「アルフェ!」

  オルロンの影が分離するように、背後からアルフェが音もなく表れた。

 昨日は手足や右目に包帯を巻いた痛々しい姿だったが、目の前の彼女は以前と変わらぬ姿で、いつも通りの無表情だ。

 何の飾り気もない表情が、今は頼もしく感じられる。

「昨日徹夜で修復してもらいました。間に合ってよかったです」

「快復していきなりの盗賊退治だが、頼りにしているぞ」

「お任せください」

「留守の間、メルルの事を頼みます」

「貴賓待遇を約束しておこう」

「いや彼女のやりたいようにさせておいた方が喜びますよ」

  ディアスが門に向かって歩くと、アルフェがオルロンに一礼してついてくる。

 背中にアルフェの視線を感じながらも、気付いてない風を装って、開いた門から外に出る。

 正門を通り抜け、完全に閉じるのを待ってから答えた。

「できれば誰にも見られたくない」

「承知しております。しかし事態は一刻を争います」

「分かってる」

 門は閉じているが、辺りを見回して人目がないことを確認。

「よし、やってくれ」

風による飛翔(ウィルト・フライング)

  飛翔呪文を唱えたアルフェにお姫様抱っこをしてもらい、大地から空へと上昇した。

 飛んでもらうよりも、抱き抱えられることには、未だに慣れることができそうにない。

 大修道院から東の空へ向かっていると、アルフェが急停止する。

「村の真上に到着しました」

 上から見ると、東西を貫く街道を囲むように、菱形の形に家屋が並んでいる。東と西には門があり、北には恐らく教会と思われる一際大きな建物がある。

「状況を教えてくれ」

「外にいる人間は皆アトラードで、革や金属の鎧を纏い武装しています」

「金属、鱗状の鎧(スケイルアーマー)か」

「いえ金色の板金鎧です。その人物が指示を出している様子です」

「野盗に気づかれないように降ろしてくれ。徒歩で近づけるだけ近づこう。金属鎧の詳細を知りたい」

 村から少し離れたところに着陸し、木々に紛れながら村に近づいた。

 家々が壁のようにそそり立ち、広場は見えないが屋上から外を見張る男達の姿が見える。

 男達は弓を構え、辺りを警戒するように睨みを効かせていた。

「今すぐ突入しますか?」

 速攻という意味ではそれが一番早い。賊の戦力は不明だが、アルフェと二人でなら負ける可能性は低い。

「いや、相手の戦力を知るためにも、少し待つ。まだ生きている人もいるかもしれないからな」

  時刻は昼時、天辺から照らす太陽が今は足枷となってしまっている。  

 アルフェに空から偵察してもらおうにも、青空に浮ぶ人影は射手にとって格好の的になってしまう。

 助けを求めた村人の焦燥が伝播し、今すぐ飛び出したくなるが、ここは岩のように堪えるしかない。

「アルフェ。魔法で木の上に飛べるか」

 ディアスが指差したのは、村などの建物よりも高い木だ。

 高さは歩幅七、八歩分くらいだろうか。

 アルフェは見上げながら答えた。

「このくらいでしたら跳躍で間に合います」

「俺を上に連れてってくれ」

 アルフェは腰に手を回すと、かがめた両膝をバネのように伸ばして跳躍。一瞬にして目的の場所にたどり着く。

  ディアスは体重をかけても大丈夫であろう太枝に立つと、初めて村の詳細が掴めてきた。

 村の中には野盗が乗ってきたと思われる馬が繋がれている。

 ここ数日雨が降ってないからか、村を貫く街道周辺が黒ずんでいるのが見て取れる。

 黒ずみは街道だけでなく、家の出入口あたりにも残っていた。

「村人の生存は絶望的だと思われます」

 死体は見当たらないが、そのままにしておくはずはなく、周辺の森に埋められたのかもしれない。

 村の外に荷車が放置されている。壊れてはいないので、邪魔だからと外に出されたのだろうか。

 観察していると、北の一際大きな建物、教会から人が出てくる。

 兜を傍に持った板金鎧の男だ。歯を剥き出しにして笑う様は下卑た行為をした証に他ならない。

「日が沈んだら、村に入る。作戦はこうだ」

  「了解しました。私は何か不足の事態が起きてもいいように、ここで見張っておきます」

 ディアスは木から降りると、作戦開始まで休息をとる事にした。

 水を飲み、干し肉を口の中で溶かすように食べ、幹に体を預け、虫が近寄ってこない事を祈りながら目を閉じる。

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