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第68話 白スーツの男

 トリステン神聖共和国 官邸


「なにぃ? 失敗しただと!?」

「はい。先ほど転移ゲートの出口で丸焦げになって発見されたと報告が……命もこのままだと危ういとのことで……」


 官邸の執務室に訪れたスキンヘッドで修道服を着ている大男はオフィスチェアに腰かけた男にそう報告する。


 官邸と言うだけあってその部屋にある物は椅子、机、絨毯など一流の物ばかり。

 その中でも、スキンヘッドの男から報告を受けている男は、身に着けている物全て一級品だった。十本の指全てに高価な指輪をはめており、全身身に着けている物の総額は、白金貨数百枚分の価値があり、その成金ぶりが窺えた。


「はぁ? いつ私が出来損ないの心配をした? 失敗!? 失敗だと!? 貴様ら実行部隊の責任者は私なんだぞ!? 私が上に……教皇様に報告をしなければならないのを分かっているのか!?」

「申し訳ございません、バルトロメロ議長。これは10人の使徒(イクスバロン)に選ばれておきながら、そのご期待に応えられなかった私達の責任です」


 スキンヘッドの男は深々と頭を下げて謝罪する。


「頭を下げるだけでミスが許されると思っているのか!? ああ……このミスを報告すると私の評価が下がってしまう……そうなれば次の議長選出に選ばれない可能性も……」


 成金の男は頭を抱えるが、何かを決心したのか、頭を上げる。


「いいか。このことは隠蔽する。この事実を知っている者は?」

「はい。今は10人の使徒(イクスバロン)でも数人程度ですが……」

「ではこの事を絶対に口外するな。貴様らがミスをした事実が明るみに出れば、必ずラポルテどもが騒ぎ立て教皇様の耳にも届いてしまう。何が何でも隠し通せ。いいか、私たちの唯一の仕事は、教皇様に喜びを届けることだ。それを決して忘れるな」

「畏まりました」


 スキンヘッドの男は再び深く頭を下げると、部屋を後にしようとするが、バルトロメロ議長に呼び止められる。


「待て。ジョアは……エルアークは何をしている?」

「ジョア様は今回の件を、どうしてこうなってしまったのか調査しています」

「そうか。では奴に伝えておけ。拾ってやった恩を忘れるなとな。次のミスは許さん」

「畏まりました」


 スキンヘッドの男は、今度こそ部屋を後にした。


――


 スキンヘッドの男が部屋を出て廊下を歩いていると、壁に背を預け、腕を組んでいる青年に出くわした。


 その青年の姿は、長くもなく短くもない緑の髪、理知的な緑の瞳、そして白を基調としたスーツを身にまとっていた。それはまるで神からの使者を思わせる天使のようだった。


 その男はスキンヘッドの男を見つけると、軽く手を上げて挨拶を交わす。


「やぁ。どうだった?」

「どうだった……ではありませんよ……。ジョア様。あなたの部隊なんですから、あなたが直接報告して下さいよ……」

「そう。10人の使徒(イクスバロン)は僕の部隊だ。そして君は僕の部下。だったら僕の指示に従って行動してくれればいいんだよ」

「はぁ。分かりましたよ」


 スキンヘッドの男は肩をすくめるが、それ以上は何も言わなかった。


「それで、トーマス。議長はなんて?」

「教皇様からの評価が下がるので失敗したことは口外するなと。任務についてどうこうという話は一切ありませんでしたね」


 それを聞くと、青年、ジョア・エルアークは、満足そうな顔をする。


「フフッ。教皇に媚びを売ることに関して、彼に並べる人間などいないからね。自分の保身以外に興味ないところも相変わらずか。まぁ、その方が僕にとって都合がいいわけだが」


「ジョア様。それはそうと、ペドリーノの容態は……」

「んー。もう駄目かもしれないね。魔力が枯渇している時に無理に転移石を使ったまでは良かったが、そこで敵の炎魔法を食らって丸焦げだ。それに見たかい? 彼の体。転移石の影響で右手と左足がなくなっていたよ。彼は脱落とみていいだろう」


「そんな……我ら10人の使徒(イクスバロン)は戦闘能力に関しては白い教祖の槍(ホワイトロムレス)にも引けを取りません。その中に居ても、ペドリーノは決して弱い方ではありませんでした……。それに転移石は教皇様から賜った物。それで人体に影響が……」


 スキンヘッドの男、トーマス・フェマスは顎に手を当てて、考え込む。


「フフッ。転移石はまだまだ未完成だったようだね。どうやら僕たちは実験台にさせられたようだ」

「笑い事ではありませんよジョア様。メンバーには転移石は使わぬように指示を出しておきます」


 ジョアはトーマスに『ああ』と返事をする。


「ところで肝心のペドリーノを倒した者の事ですが、何か掴んでいらっしゃいますか?」

「さぁね。ペドリーノが向かった先は、ベンセレム王国の北部、ベルフィア領だったはずだけど、そこでたまたま王の守護者(パラディン)、もしくはそれに匹敵する人物と戦闘になって敗れたか、弱っている所を狙われたか……いずれにせよあの区域には何かがあるということさ」


 ジョアは、仲間が重体だというのに、それをまったく意に介していないようだった。


「どうしましょう?我らは10人。一人いなくなるだけでも痛手です。計画を見直す必要があるかと」

「そうだね。まぁ、教皇に目を付けられない程度で頑張ればいいさ。あの教皇がいる限り、トリステン神聖共和国は不滅だ。それぐらいの力が教皇にはある。僕達が本気になって計画を遂行しようとしたところで……って話だな」

「そう……ですか。ではメンバー各員には引き続き任務の続行を指示します。ペドリーノの空きは誰が埋めましょう」

「それには及ばないよ。彼は脱落したとはいえ、任務の70パーセントを達成済みだ。誰かを回すつもりはないよ」

 

 ジョアは考える間もなく即答する。


「畏まりました。では、各メンバーに指示したのち、私も任務に戻ります」

「よろしく頼むよ」


 トーマスはジョアに別れを告げ、速足で廊下を進んでいった。

 ジョアは、トーマスを見送ると、再び壁に背を預けて腕を組む。そして、意味深に笑みを浮かべた。



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