第58話 ダンジョンの様子
「暴風雪!!」
エマは長さ30cmほどの木の杖を構え、頭が牛、体が人間の怪物ミノタウロスに大量の氷の礫を放ち攻撃する。
「ブモォォォォ!!!」
しかしミノタウロスは氷の礫を自慢のムキムキに鍛え上げられている肉体で跳ね除けながらエマに突進する。
「くっ!」
ミノタウロスがエマにこん棒を振り上げたその時、ミノタウロスの牛頭だけが空高く舞い上がり、魔石を残し消え去った。
「あ、ありがと……」
「ちっ。いえ……」
マリアは小さく舌打ちするとミノタウロスからでた魔石を回収する。
「いやー、凄いですね、マリアさんは。Cランクの魔物の首を一撃で切り飛ばすなんて。あれはひょっとすると二級、いや下手すると一級騎士並みの実力が……」
ちょっと離れたところでミノタウロスの群れを一緒に討伐していたユージンは、マリアの戦闘力の分析をする。
「ああ。正直マリアの実力は俺でも測りかねているんだ」
ルーナも風魔法でミノタウロスと上手く応戦出来ている。問題はエマだな。
得意の氷魔法も、氷のダンジョンだけあって氷耐性が高い魔物ばかり。今回は戦闘に極力参加させず、サポートに回らせるのがいいだろう。
「しかし、罠も魔物も少ないですね。道も一本道のみ。こんなダンジョン初めてです」
「出来たばっかりのダンジョンだからじゃないか?」
「そうだといいのですが……」
俺たちは一度ルーナが作ってくれたサンドイッチを食べる為、休憩を挟んだ。
「どれくらい歩いたんだ?そろそろ次のフロアか何か変化が欲しいよな」
「そう……ね」
このダンジョンに入ってから戦闘は4回、そのどれも大した活躍が出来ていないからなのか、元気がないエマ。
「エマ。このダンジョンでは戦闘に参加しなくていい。今回はサポートに徹してくれ」
「……。ええ、分かったわ。光魔法はあまり練習してなくて、得意ではないけどやってみる」
エマは自分が戦闘でお荷物になっていることをちゃんと自覚しているのだろう。素直に応じてくれた。
これはエマが使えないといったわけじゃない。むしろ魔法に関してはここにいる誰よりも精通しているし、その中でも氷魔法は抜きんでたものがある。ここにいる魔物と相性が悪すぎるということだ。
しかし、優秀なエマの事だ。光魔法はバフや回復、攻撃や防御にも使える魔法が豊富にある。それらを駆使して上手く立ち回ってくれるだろう。
「エマ様は氷魔法以外にはどのような魔法が使えるのですか?」
「そうね……。使える属性は水と光だけだけど、光魔法は軽い骨折までなら治せる治癒と目眩まし、聖なる盾。あと氷魔法ほどではないけど水の攻撃魔法も使えるわ。ここの魔物には効果はなさそうだけど……」
「そうですか……。あまり戦力として数えない方がよさそうですね」
ここぞとばかりにエマを攻撃するマリア。いつもならエマも言い返すところだが、今日は悔しそうに顔を歪めているだけだ。
こういうのも新鮮でいいが、あまりマリアが行き過ぎるようなら止めないといけないな。
「よし。それじゃ先に進むぞ」
俺たちはこの一本道をまた歩き出した。
――
どのくらい歩いただろうか、すっかり魔物も罠も出現しなくなった。
「はぁ。本当にどうなっているんだよ!このダンジョンは!」
同じ代り映えのない景色を歩き続け、ストレスを吐き出すように大きな声を上げてしまった。
「フィンゼル様。そろそろ引き返しますか?やはりこのダンジョン普通ではないような気がします」
んー。確かにずっと同じ道が続くなど普通じゃない気がする。かといって、なんの収穫もないまま引き返すのもなぁ
「あっ! ご主人様!見て下さい! なにか見えましたよ!」
「なに!?」
ここにきてルーナからの朗報だ
「どこだ?」
「ほら、ここから大体2キロほど先に何か見えませんか?」
2キロ先……。俺にはずっと一本道が続いているようにしか見えない。
どれだけ目が良いんだこいつは……。
「あっ!本当ですね、扉が見えますよ!」
ユージンは望遠鏡みたいなものを覗いていた。
「なんだそれは?」
「これは魔制具、魔遠鏡ですよ。覗き込んでレバーで調整すれば10キロ先まで見える優れものです」
「へぇ。貸してくれ」
俺は魔遠鏡を覗き込むと確かに扉のようなものが見えた。
「あそこを開ければとりあえずは一区切りか?」
「そうかもしれませんね。とりあえずはあの中を覗いて今日は引き返しましょう。ダンジョンは逃げません。また準備を整えて改めて挑戦するべきかと」
「そうだな……」
思えばまだ第一フロアだ。このダンジョンが何階層まであるか分からないが、この感じだと今日中には終わる見込みもなさそうだな。
俺たちは扉の前に到着する。
「近くで見ると大きいですね。こんな物開けられるのでしょうか?」
マリアが疑問に思っているが、その通りだ。見た目で見たら10トンはありそうな感じ。
「これを開けたら今日はとりあえず終わりね……」
ここに来た時の張り切りはどこに行ったのか、エマは大分疲れている様子だ。
「では開けますよ」
ユージンが扉に手をかけ押すがびくともしない。
「ふぅ。駄目ですね。開く気がしません」
おいおい。まじかここまで来て扉も開けられず帰るなんて……。
いや……開けられないなら強引にぶち破ればいいことだ。
「みんな下がれ」
「え?ちょっと! あなた何をする気なの!?」
「この扉を俺の魔法で吹き飛ばす」
俺はダンジョンの入口を塞いでいた氷を砕いた時と同じように両手に魔力を溜める。
「ちょっ……。本気なの?どうなっても知らないわよ!?」
皆が後ろに避難したのを確認し、巨大な炎の玉を扉に向かって発射する。
扉に着弾すると、地鳴りがするほどの低い轟音と共に扉は瓦礫とかした。
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