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第114話 ベルフィア家の事情

 ベルフィア城のとある談話室。そこにはオリバーとミリーシャ、そして4人の子供たちがいた。

 

「ねぇ、本当に戦うの? フィン君は私たちの兄弟で、まだステラと同い年の12歳なのよ? それなのに可笑しいよ……兄弟でこんな……」


「まだそんなことを言っているの? アリス。彼はベルフィアの人間ではなくてヘストロアの人間ですのよ? そのヘストロアがあろうことにもベルフィアを乗っ取ろうとしているのです! それをあなたは許すのですか!?」

「そうだよ! お姉さま! お兄様が勝たないと私達ずっと族無し(ラブル)ってバカにされるんだよ! 私そんなの嫌だ!」


 アリスが決闘に否定的意見を口にすると、ミリーシャとステラが批判する。


「姉上。これは5年も前から決められていた事です。それを今更……」

「で、でも……」

「アリス」


 ヘンリーにも批判されアリスが口ごもったところで、レイモンドがアリスを呼ぶ


「な、なに? お兄様」

「俺は学園に入ったこの二年間みじめな思いをし続けてきた。お前にこの気持ちが分かるか?」

「わ、分かります! 私もパーティーなどにお呼ばれした時は、族無し(ラブル)という理由で笑われて……」

「学院に入ったらそんなもんじゃないぞ?」

「え?」


「学院は勉学や戦闘能力を磨く以外に貴族の子供同士で交流を持ち、貴族社会に出てからのパイプ作りの役割を持つ。そんな学院の中で貴族名がない、つまり次期当主の資格がない者と積極的に仲良くする貴族がいると思うか?」

「そ、それは……」

「いないんだよ誰も。いてもカスみたいな下等貴族か、僕らみたいな族無しでつるもうとする奴だけだ。本物の上位貴族と関われやしない。想像してみろ。自分より能力が低い者に見下される気分を。僕たちの今の身分は貴族名を持っている、下等貴族より下だ。相続権を持たない貴族に価値はないんだ」


 レイモンドは淡々と語るが、その目には確かな憎悪があった。


「その通りだ! レイモンド! 今君たちの価値はそこらのカス貴族より下なのだ! 今こそお前たちを貶めたヘストロアからの呪縛から解き放ち! 立派な貴族へと昇華する時だ!」


 そこにオリバーも加わり、レイモンドを激励する。その物言いからは、自分の息子であるフィンゼルを完全に敵とみなしていることが窺えた。


「まぁ、その原因を作ったのはあなたなんですけどね……」

「まだ根に持っていたのか……明日で全て元通りになるんだからいいだろ……」


 ミリーシャの嫌味にたじろぐオリバー。


「父上、確かにこれでベルフィアの貴族名も取り戻せて、もとには戻るのかもしれない。しかし、時間は戻らない。そう僕があんな下等貴族にバカにされていたという事実は変えられないんだ」


「そうだ! その怒りを明日にぶつけろ! それで全て終わるんだ!」


 レイモンドの瞳はただでさえ怒りで揺れている所をオリバーがさらに煽り、その怒りの炎は激しく揺れ動いた。


 レイモンドには貴族としてのプライドがあった。それに見合うような力もある。故に人に見下されるのが我慢ならない。それが能力の低い人間からだとなおさらだ。しかしそれ以上に気にくわない存在がいる。


 生まれながらにしてヘストロア公爵家の血を受け継ぎ、ベルフィアの継承権までも奪った男。貴族としてのプライドが必要以上に強いレイモンドからしたら、いくら血が繋がっていようと到底許せるものではない。


「言われなくとも、今までのうっぷん……晴らさせてもらう。僕のこの力でな」


 レイモンドの右手に青白い光が灯るとそれを握りつぶす。


「しかし兄上。情報によれば先日の帝国との戦争で彼は中々の戦果を納めているようです。そんな簡単に……」


「そんなもの嘘に決まっているだろう。大方ギュンターか配下の騎士の手柄を貰ただけに過ぎない。戦場でたった12歳の子供に何ができるというのだ。それに沼地のスケルトンどもが暴走して帝国兵に襲い掛かったとの情報だ。つまり奴らは実力ではなく、ただ単に運が良かったということだ」


 ヘンリーはレイモンドの意見を聞きそれもそうかと思いなおす。


「お兄様! あんな名前だけの貴族やっつけちゃってよ! ぼっこぼっこよ!」

 

 ステラは立ち上がりシャドーボクシングを始める。


「レイモンド、分かっていると思うが殺しはNGだ。後でもめ事の原因になる」

「分かっていますよ、父上。でも、相手が予想以上に脆弱ならばその限りではないかもしれませんがね……」


 誰もがレイモンドの勝利を疑っていない状況の中で、ただ一人、アリスだけは、この異様な光景を見守るしかなかった。



夜も投稿します!

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