第107話 決着
「まさか本当に勝っちゃうなんて……」
エマは絶句しながらその場に茫然と佇む。
俺達の目の前には焼け野原になった元草原が広がっていた。俺が火球を放った場所は、炎で大地がえぐり取られてしまっているほどだ。その道はスカリアの森まで続いており、森の入り口部分を燃やしてしまっているほどだった。
「いっつ!」
俺は手を動かそうとしたら、手から腕にかけて激痛が走る。俺の両腕は火傷で皮が剥がれ、赤くなり爛れていた。
エマが魔法をかけて処置していてこれだ。もし彼女が居なかったらと考えると、ゾッとする。
「腕、見せなさい」
エマが俺に氷結と治癒の魔法をかけてくれるが、その目は腕に向いておらず、チラチラと顔を赤くしながらこちらの様子を窺っているようだった。
「ねぇ。 あなたの力が増したのって、私の……」
エマはそこまで言うと話すのをやめてしまう。いつもズバズバものをいうエマがこんなに歯切れが悪いのは珍しい。
最も彼女がこんな状態になってしまったのは、俺に甘い声で何でもすると言ってしまったからだろうが……。
俺もそれにのせられて雄叫びを上げたが、実際に威力が上がったかは正直微妙なところだ。
そのタイミングで暗黒の炎の抵抗力が弱くなったため、おそらくアドレイの魔力切れで押し勝てたのだろう。つまりエマの言葉がなくても勝てたわけだが、せっかくなんでもしてくれると言っているんだ。お言葉に甘えよう。
「ああ、エマの言葉のおかげだ。なんでもしてくれるんだろ?」
「うっ! そ、それは…」
エマはさらに顔を赤くし、目をそらす。戦争が始まってからエマの意外な一面を沢山見たが、これは良い物だ。
「ま、それはまた今度頼むとして、今は帝国皇太子ことアドレイ・ゴルべフ・ヘルドロード皇子の討ち死にをみんなに知らせないとな」
俺が皇太子を打ち取った合図は上空に魔法で花火を二発上げる手はずとなっている。俺が何らかの理由で上げられない場合は、エマが持っている魔制具で花火を上げる予定だった。
俺は空に花火を打ち上げようと手を伸ばしたその時―――
突如黒い炎が俺に襲って来た。
しかし、威力もスピードも大したことはないため、俺は冷静に体を逸らした。
「勝手に人を殺してんじゃねーぞ!」
黒い炎が飛んできた方向には着ていた服は焼け、鮮やかだったはずの銀髪が半分燃えたアドレイの姿があった。全身の肌は、赤を通り越して黒く焼け焦げ、皮膚が剥がれて中身が見えている状態であったが、背中にはうっすらと黒い翼が生えていた。
「う…そ…。あれを食らって生きていたの?」
「どうやら直前でやり過ごしたみたいだな」
「貴様……。俺にこんな事してただですむと思うなよ……! 行け! 兵達よ! 奴を! ベルフィアを蹂躙しろ!」
これはちょっとまずいことになったな……。アドレイがボロボロとはいえ、まだ後ろには相当数の帝国兵がいる。大半は俺の炎とアドレイの黒い炎に巻き込まれたが、一斉に突撃されたら対処に苦労しそうだ。後方に避難したベルフィア兵を呼び戻そう……と思ったが、後ろの帝国兵たちに動きはない。
「おい! どうした!? なぜ動かない! 俺の命令が聞こえないのか!?」
アドレイの声に、帝国兵は下を向いて目をそらす。
これは当然だな。味方であるはずの帝国兵を巻き込みながら戦っていたのは総大将であるアドレイ自身だ。一体誰が自分達の命を軽んじるばかりか、奪っていく者の為に戦うというのだろうか?
「ふざけるなよ! 兵どもが! 一体誰のおかげで生活できていると思っているんだ! どれもこれも免税や他の特権を許している皇族のおかげだろ!? ならば黙って俺に命を捧げろ! 兵士の代わりなどいくらでもいるが、俺はそうじゃないんだぞ!」
「偉大なのは皇帝陛下であってお前ではない……」
アドレイが半狂乱に喚く中、帝国兵からそんな声が聞こえ、火傷で黒く爛れたアドレイの顔が益々醜く変化する。
「なんだと! 誰が言った今の言葉! 前に出ろ! 処刑してやる!」
しかし、そんな事言っても誰も前には出てこない。
「誰も出ないのか? ならばしょうがない。 全員処刑だ!」
アドレイはレーヴァテインを帝国兵に向ける。レーヴァテインの黒い炎は今までの光を寄せ付けないほどの黒さはなく、うっすらと燃えているだけだった。
「もう、やめろ。お前の負けだ。武器を下ろせ」
俺はこの状況に見かねて、アドレイを諭すように話しかける。
「うるさい! 黙れ! 俺は負けていない! 俺は常に勝ち続けてきたんだ!」
「負けていない? この状況でか? お前の魔力は枯渇し、帝国兵にも見捨てられた。もう詰みだろ? おとなしくすれば捕虜にしてやる。命までは取らない」
皇太子ではなくとも一国の皇子。使いようはいくらでもあるはず。殺すより捕虜にした方が帝国に対する有効なカードになる。
俺はゆっくりとアドレイに近づいていく。
「くっ…くるな! それ以上近づくな! 俺は貴様らのような有象無象の貴族とは違う! 神に選ばれた皇族だぞ! そして次の皇帝となる人間なんだ! そんな俺を捕虜にするだと? ふざけるな!!! 俺にこうべを垂れろ!!! 敬意を示せ!!! 俺の指示に従え!!!」
「みっともないわね。皇族とあろうものが……。あなたは戦いに敗れた。その責任は総大将であるあなたにあるのよ。その責任を全うしなさい」
エマは軽蔑するような視線でアドレイを見る。
「ふざけるな……。俺は皇帝になる男だぞ……なんでこんなところで道端の石に躓かなきゃならんのだ……ふざけるな…ふざけるな……」
アドレイからなにか不穏な気配を感じる。魔力は枯渇している筈なのでここから何かをできるとは思えないが……。
「ここで終わりならいっそ……」
レーヴァテインが黒く輝き始めると、アドレイの全身が黒い炎に覆われ始めた。
「なんだ!? 何が起きている!? 奴の魔力はもうないはず!」
「フィンゼル見て、彼の体を」
エマの言う通りアドレイの体に注目すると、体中の血管が浮き出てそこから血を吹き出している。
「何を……やっているんだ……?」
「自身自信をレーヴァテインに注いでいるんだわ! このままいくとまたあの暗黒の炎が暴走するわよ!」
俗にいう自爆……か。
アドレイの体は蒸発するかのように皮膚が煙と消え、目玉が飛び出て崩れていく。
「あは、あはははは!!! みんな焼け死ねよ……。俺と一緒にさぁ!!!」
「そうはさせない!」
俺は自爆しようとするアドレイに火炎を放つが、黒い炎の前に相殺される。というか、あの黒い炎…光の終焉よりヤバそうな感じだが……。
「人体ってこんなに魔力が内蔵されているのね……」
「関心している場合じゃないぞ! 何とかしないと……」
俺はまた超越する地獄の火球を放つため深呼吸をして放つ準備に入るが、それより先にアドレイが動き出す。
「さぁ! 終わりだ! 俺と一緒に全て焼け死ねぇぇぇ!!!」
「いいえ。死ぬならあなた一人で死んでください」
アドレイの絶叫と共に、凄く聞き覚えのある声が聞こえた。
その声の主は今暗黒の炎を放つ寸前だったアドレイの首を切り飛ばした。
「ふぅー。これで1200人目です」
声の主、マリアはそんな物騒な言葉を放つ。こいつ一人で1200人の首を刎ねたのか……。
「フィンゼル様! 遅くなり申し訳ございません! お怪我はございませ……フィンゼル様! フィンゼル様の両腕が!」
「別に大丈夫だ、これくらい。それよりありがとう助かったよ」
「いえ、本当に遅くなってしまい申し訳なく……」
「あなた、いやにタイミングが良かったわね? ひょっとしてわざと?」
エマがそんな不謹慎な事を言うが、俺は戦場でヒーローのように、そんな都合よく危険なタイミングで助けに来れるようなことできないだろと一蹴する。
まぁ、何はともあれ……
「これで終戦だ」
俺は二発の花火を上空に打ち上げた。
キャラクターの人気投票とかやってみたいけど、そんな機能小説家になろうにないよなぁ。
どのキャラクターが人気か気になって夜も眠れません。
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