第９話 闇の片鱗
魔法の授業が終わり、昼食を終えると、次はギュンターの剣術の授業だ。そのため外の修練場にフィンゼルとマリアは来た。
修練場には鎧を付けたカカシのような人形がいくつも並べられていた。
「坊ちゃま！ お待ちしておりましたぞ！」
「ギュンター……これお前が並べたのか？」
「いかにも！ 今日こそ坊ちゃまに剣術の楽しさを教える為に！ このギュンター！張り切って準備させていただきました！」
ギュンターは拳を固く握り、ガッツポーズを繰り出す。その声量からも、いかに気合を入れて授業に取り組んでいるのかが分かった。
「お義父さん……恥ずかしいです……」
マリアは手で顔を覆うしぐさをする。
「ではまずは、私が手本をお見せしましょう」
ギュンターは置いてあった木刀を手に取り、正眼に構える。
「ハァァ！！」
その気合の叫びと共に、甲冑を着た人形は真っ二つに割れた。
「では坊ちゃま。やってみて下さい」
ギュンターは木刀をフィンゼルに差し出してくる。
「いや……無理だろ」
フィンゼルはそれを冷静に拒否する。
「な、なぜですか坊ちゃま！」
「なぜも何も、あの人形、木製だろ？ しかも鉄製の甲冑も纏っている。それを木刀で叩き割るなんて芸当が俺に出来ると思っているのか？ 絶対に無理だ」
「そんな！ 坊ちゃま！ やる前に諦めるなどと……。坊ちゃまの中には、奥様から受け継いだ素晴らしい血が流れております！ 必ずできます！ 私を信じて下さい！」
「いや、そうは言うが、物理的にって言うか……普通に考えて筋力的に無理だ」
「しかし！ マリアにできてフィンゼル様に出来ないことなどありません！」
「マリアが出来る？ ははっ！そんなわけが……」
そこでフィンゼルは信じられない者を見た。
マリアは６歳。フィンゼルの２歳年上だ。しかし、４歳と６歳でどれほどの筋力の差があるだろうか？確かに幼い頃の１年の差はかなり大きい。しかし、しかしだ。こんなことがあっていいのだろうか―――
「人形の首から上がなくなっている……」
並べられてあった人形の、半分ほどの首が刎ねられていた。
「ハッ！」
マリアは信じられないほどのスピードで駆け抜けると、また一つ、人形の首を刎ね飛ばした。
今刎ね飛ばされた人形の首は、フィンゼルの足元まで転がって行く。フィンゼルはそれを拾い上げると、初めに素材を確認する。
（素材はやはり木製……だよな。マリアが使っているのも木で出来た木刀……。それを刎ね飛ばした？あんな幼い少女が？）
フィンゼルは全く理解できなかったが、まず確認しなければいけないことがある。
「マリア……確認したいんだけどいいかな？」
「あっ！ごめんなさい！フィンゼル様の特訓用の人形を壊してしまって……すぐに新しいのに……」
「ああ。いや、いいよそれは。それよりも俺の質問に答えて欲しんだ」
「あっ。はい……」
マリアは、自分がやってはいけないことをやってしまい、フィンゼルを怒らせてしまったと感じ、うつむいてしまう。
「なんで……首なんだ？」
フィンゼルは純粋に疑問に思っている事を聞いてみた。ギュンターが見せたのは人形を真っ二つにする業だ。純粋に真っ二つにする筋力がないのか、それとも他に理由があるのか……。
「え？特に理由はありませんが……効率がいいからでしょうか？」
「効率がいい？」
（確かに真っ二つにするよりかは体力を使わなそうだが……。）
「人を殺すには首を刎ねるのが一番効率良いんです」
「……え？」
「手をとったり、足をとっても人は死にません。でも首さえ落とせばそこで人間は死んじゃうんです。前の……アポダイン領の、領民の反乱でいっぱい見ました。手がない人、足がない人、目がない人……でも死んではいませんでした。でも……お父さんとお母さんは首をなくしました。それで……」
「ああ。もういい。分かった。俺が悪かった」
フィンゼルは聞いていられなくなり、そこで話を中断させる。話していたマリアの目は、本当に人を躊躇なく殺せそうなほど歪んでいた。
戦争は身近にあることをフィンゼルは改めて再認識した。そもそもフィンゼルの父であるオリバーは帝国へ侵略しに行っていることを思い出した。
（俺が勉強している魔法も、剣術も、人を殺すための手段だった。目の前にいるこんな子供でさえも戦争から闇を植え付けられている。俺は……いざという時戦えるのだろうか？サディーは有事の時は先頭に立ち、導くのが貴族だと言っていたっけ……）
「マリア。確かに首を狙うのはいいが、警戒されやすい箇所でもある。やはりすべてを叩き伏せる両断をお勧めするが？」
「そうですかね？」
フィンゼルが考え事にふけっている間に、親子は戦闘スタイルで話し合っていた。
面白いと思ったら、評価とブックマークお願いします！
