勇者パーティーの捜索が始まったよ。イットさん。
宿屋の広間にて集まっていた勇者アベル達。本日の情報収集の報告のため、一旦集まっていたのだ。最初に口を開いたのは、リザだった。
「ねえ。みんな。街の様子、どうだった?どうやら、ラドロー一味が壊滅したことによって、治安が良くなっているみたいなのよ。」
リザの言葉を聞いて、次に口を開いたのは、荷物をたくさん両脇に抱えていたエミだった。
「そうらしいわね。でも、変なのよね。何故か、ラドロー一味壊滅倒したのは、私達になっているみたいなの。いろんな人達から、お礼にと、色んな物をもらったのよ。どういうことかしら?」
エミの疑問を受け、アベルも頷きながら、酒場での事を報告した。
「そうだな。俺は、酒場で情報を集めていたんだが、異様な盛り上がり方だった。勇者アベルパーティー万歳ってな。いったい、このオアステで、何が起こってるんだ?」
エミ、リザ、アベルは、それからも、今日の謎の現象について、あーだこーだ、色々な推測をしながら話し合っていた。そんな中、ひとり、腕を組みながらじっくりと考え込んでいるカイル。話の全く進まない状況の中、ようやく口を開いた。
「なあ、みんな、論点がずれていないか?」
「論点?」
「そうだ。みんな、論点がずれている。」
「どうして?」
「俺達は今、何を目的に行動しているんだ?」
「何をって、謎の男の情報を得ることだろ?」
「そうだ、アベル。今俺達は、謎の男の情報を集めること。魔王討伐へむけて、謎の男の情報を集めることが最優先なんじゃないのか?それなのに、オアステの治安が良くなっているだの、誰がラドロー一味を壊滅させたんだろう、とか、どうでも良くないか?ラドロー一味が壊滅して、オアステの治安が良くなった。それで、その話はおしまい。誰がやったかとかは、調べる必要がない。俺達勇者パーティーがラドロー一味を倒した、という噂が出回っているらしいが、所詮噂だ。俺達が、そんなものに振り回される必要なんてないだろう?
いいか、重要なのは、魔王討伐。だから、早く、謎の男の情報を集めることだろう?違うか?」
勇者アベルパーティーの目的は、あくまでも魔王討伐。魔王討伐をより、世界を平和に導くこと。それが、勇者アベルパーティーの到達点なのだ。だからこそ、一地域の治安に構っている暇はないのだ。リザも、その事は十分に分かっていたつもりなのだ。だからこそ、一つ一つの街や人々には、あまり興味をしめさないでいた。だが、先程情報調達の際に見てきた街の人達の笑顔を目の当たりにしたことにより、その思考が変わってきてしまっていたのだ。ここ、オアステの治安の悪化の直接的な原因はラドロー一味によるもの。そこには、魔王の影響は一切なかったのだから。
だから、カイルの注意も、さほど耳に入ってこなかった。リザの思考は、完全に、ラドロー一味を壊滅させた人物が誰なのだろう、ということで一杯になっていたのだった。
アベルも、エミも同じだった。オアステには、魔王による影響はは何もなかった。ラドロー一味による治安の崩壊。それが壊滅したことによる改善。今日の情報で得られたのはこれだけ。だからこそ、魔王討伐という最大の目標が、ハッキリとしないものへと、頭の中で変わってきていたのだった。
黙り込んでしまった3人を見て、カイルは再び激を飛ばす。
「おいおい、どうしたんだよ。お前ら、魔王討伐をする気ないのか?しっかりしてくれよ!」
カイルのそれは、まるで、街中を何も見てきていないような口ぶりに、アベルは感じていた。だから、アベルは、カイルに対して腹を立て、急に襟元を掴み睨み付けた。
「うるせえ、カイル!何でそんなことが言える?お前は、あの、劇的に変わった街中を見てこなかったのか。今日のオアステの様子は、平和そのものだった。あんな平和な状況、街中の人達の笑顔、酒場での盛り上りを見たら、魔王討伐に意味があるのか、分からなくなって当然だろうが!」
「だから、論点がずれている、と、いっているんだ。オアステに魔王の影響はない?そんなことは、俺達に関係あるか?俺達は、魔王討伐のため、集まったんじゃないのか?」
「そういうお前は、今日、何をしていたんだ?」
「俺は、謎の男の情報を集めていたに決まっているだろう!いい加減、その手を離すんだ!」
カイルは、アベルの手を引き剥がし、力を入れて押しやった。その勢いに負けて、アベルは後ろへ後退し、膝裏が椅子に当たる勢いで、そのまま着席することになった。
「いいか、アベル。リザにエミ。俺は、今日、オアステ中に、謎の男の聞き込みを続けた。だが、何の情報を得ることができなかったんだ。だが、その事により、一つの答えが出た。ここで情報が得られないのならば、謎の男は、イースト国の人間ではないということだ。だから、明日からは、ウエスト国で聞き込みをすればいい。これが、今日の進展。それ以外はどうでもいい。違うか?何も意見がなければ、俺はもう休ませてもらう。いいな!」
カイルはそう言い残し、自分の部屋へと行ってしまった。そんな様子を、黙って見ていたアベルとリザとエミ。カイルの姿が見えなくなり、リザが口を開いた。
「ねえ、アベル。カイル、あんな言い方、ちょっと、冷たくない?いくら魔王討伐が大事だからって。私達の本来の目的は、平和を目指すことなのに。」
リザが愚痴を言うと、その通りだと言わんばかりに、エミも首を縦に振っていた。一方アベルは、何か考え事をしているかのように、カイルが出ていった方を、ずっと見ていた。
「ちょっと、アベル、聞いてるの?」
愚痴を聞いてもらえてないと思ったのか、リザの口調が少し強くなった。そんなリザに、カッとなって、アベルは言い返してきた。
「うるせえ、リザ。そんなことは、どうでもいいだろう。」
「ど、どうでもいいですって?」
「ああ、そうだよ。」
「どういうことよ?」
「どういうことも何も、何で、このパーティーを、カイルが仕切っているんだ?俺達は、勇者アベルパーティーじゃなかったのか?俺がリーダーじゃなかったのか?それなのに、何だ、カイルは。自分がリーダーになったつもりでいるのか?」
アベルの子供じみた愚痴を聞いたリザとエミは、はあっ、と呆れながらため息をはいた。勇者のくせに、愚痴愚痴と情けない。リザとエミはそう思っていた。
「とにかく、カイルの言うことには従いたくない。明日からウエスト国へ行くだと?まずは、ラドロー一味の壊滅のことについて調べるのが先だ。」
アベルの提案は、ただ、カイルの提案に従いたくないための強がりにしか、2人は感じなかった。
「ちょっと、アベル。そんな子供じみた事を言ってる場合?もうちょっと、真剣に考えてよ!」
リザがそう反論すると、アベルは、表情がさらに険しくなった。
「なんだ、リザ。俺が、そんな幼稚な考えをしていると思っているのか?ふざけるな!」
「なら、なんだって言うのよ!」
「いいか。冷静に考えてみろ。ラドロー一味は、かなり大きな犯罪組織だった。それこそ、俺達でさえ、軽く手を出すことはできないくらい。そんな大きな組織が、こんな静かに短時間で壊滅したんだ?これは、どういう事だと思う?」
「えっ?」
幼稚と思っていたアベルが、実は真剣にラドロー一味の壊滅について考えていたと知って、リザは狼狽えていた。エミも、そんなアベルに対して驚き、口をポカンと開いて動けずにいた。
「ラドロー一味に対抗できる組織といえば、ウエスト国のプジョー一味ぐらいのもんだ。だが、そんな大きな組織が争えば、間違いなく戦争になる。そうなったら、この街も無事ではすまない。それなのに、何事もなかったかのように、静かにラドロー一味は壊滅したんだ。これは、かなり不自然だ。」
「た、確かにそうね。」
「つまり、組織同士の戦争ではないとすれば、ラドロー一味を壊滅したのは、少人数のグループによる行動、もしくは、単体での行動、だと考えるのが妥当だろう。」
「そうなるわね。」
「そうなると、話が進んでくる。」
「どういうことよ?」
「少人数、もしくは、たった1人で、ラドロー一味に勝てるような人間が、この世界に存在すると思うか?」
「い、いや、とても、そんな人間がいるとは思えないわね。」
「そこで、前の、あの男の事を思い出してほしい。あの男は、魔王でさえも手玉にとるような奴だったんだ。」
「!!確かに。そうなると、ラドロー一味を壊滅させたのは?」
「そう、あの謎の男の仕業だろう。」
「確かにそう考えるのが妥当だと思う。だけど、アベル。どうして、そう考えたの?」
「簡単だ。あらゆる可能性を消去方で考えていただけだ。そうしたら、ラドロー一味を壊滅させられる可能性がある人間は、あの謎の男だけだと結びついたんだよ。」
「なるほど。それで、これからどうするの?」
「明日になったら、カイルの奴がうるさいからな。今から、ラドロー一味のアジトへ乗り込む。何かしらの痕跡があるかもしれない。」




