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異世界最強はヤミ金  作者: 掘削名人
盗賊一味ラドロー
13/16

優秀な新入社員だよ。イットさん。

 イットの命を受け、ラバーは、ラドロー一味のアジトに来ていた。当然、ラドロー一味の幹部としてではなく、イットの部下として。つまり、イットとラドロー一味との間にある、50000ゴールドの問題を片付けるために、ラバーはラドローを訪ねているのだ。


「ラバーさん。お帰りなさい。お早いお帰りですね。大丈夫だったのですか?」


 ラドローの部下が、ご機嫌伺いのような態度でラバーに話しかけてきた。自分は命懸けの思いをしてきているというのに気楽なもんだ、ラバーはそう考えると、怒りがこみ上げてきた。


「ラドローさんはいるか?」


「は、はい。お待ちください。」


 ラバーの怒りの感情が表に出ている表情を恐れたのか、ラドローの部下はヘコヘコしながら、奥の部屋へと消えていく。ラドローを呼びに行ったためだ。暫くすると、ラドローが機嫌の悪そうな表情で出てきた。ラドローからすると、ウエスト国立図書館保管庫への侵入は難しいことは分かっている。それなのにも関わらず、想定よりも遥かに早いラドローの帰還が気に食わなかったのだ。


「おい、ラバー。えらい早い帰りだな。「万能辞書」は手に入ったのか?」


 ラドローは、皮肉を込めた言い方でラバーに質問をした。こんな短時間では無理だと分かっているのにも関わらずの、その嫌みな質問を受けて、ラバーは完全にラドロー一味への未練は消えてしまった。今振り替えると、ラバーの「隠蔽」のスキルは盗賊一味にとっては非常に有能のため、ラバーは昔からリスクの高い仕事を何度も何度もやってきたのである。そのお陰で幹部にまで上り詰めたのだが、一味の頭であるラドローは、あまりリスクのある行動をしてこなかった。それを振り返ったことで、ラバーの気持ちは完全にラドロー一味から離れてしまった。


 そこで、ラバーは思い出した。イットの「俺のスキルの範囲内だ。ここまで言えば、分かっているよな。」という言葉。イットは、謎のスキル「契約」を持っている。イットの言葉から察すると、ラバーは、イットの部下になることで、雇用契約を結んだ。この雇用契約も、イットのスキル「契約」の一部だとすれば、間接的にではあるが、ラバーも、イットの顧客に対して。「契約」のスキルが使えるのではないだろうか?

 そうなれば、もう、ラバーはラドローを恐れる必要なんて、全くない。あくまでも、イットの顧客に過ぎない。イットから50000ゴールドを借金しているだけの男に過ぎないのだ。それを思うと、ラバーからすれば、ラドローがその辺の雑魚にしか見えなくなっていた。


「ラドローさん、いや、ラドロー。あんたの命令は聞くことはできない。」


「あん?なんだと?俺の命令が聞けねえのか?それよりも、お前、俺を呼び捨てにしやがったな。いつからそんなに偉くなったんだ?あん?」


 ラバーの強気な態度が気に食わなかったのか、ラドローは相当腹をたてていた。目の前の机を叩き壊したり、椅子を蹴りあげたりと暴れていた。回りの部下は、そんなラドローを見て怯えていた。だがラバーは、そんなラドローを見ても、ただ小動物が暴れているにだけにしか見えなかった。


「なあ、ラドロー。とりあえず話を進める。俺は、イットさんの命令でここに来たんだ。50000ゴールドを払ってほしい。」


「な、何を言ってる?イットの命令だあ?ふざけてるのか!」


 ラドローが怒るのは仕方がない。今、ラドロー一味は、イットと敵対しており、イットを倒すためにラバーに命令をしていたのだ。それなのに、そのラバーがイットの命令で動いていると言っている。ラドローからすれば、ラバーの行動は完全な裏切りなのだ。


「別にふざけてはいない。イットさんの約束を守ってほしいだけだ。」


「それがふざけてるって言ってるんだ。50000ゴールドなんて払うはずがないだろう!何を言ってやがる!」


 ラドローがラバーの意見を否定したことにより、ラバーの脳裏に急に音声が流れてきた。


『ラドローは、重大な契約違反をしています。それにより、ラドローには、ペナルティを与える必要があります。』


「な、なんだ?」


 急に聞こえて来た音声に驚くラバー。すると、ラバーの目の前には、文字の書かれたパソコンのウインドウのようなものが出現していた。それどころか、周りの風景が、完全に時間が止まっている化のようにピクリとも動かない。当然、ラドローもピタリと止まっている。ラドローが現状に戸惑っていると、再度音声がラドローの脳裏に流れてきた。


『説明します。これは、「イットの契約スキル」によるもの。イットの雇用契約を結んだあなたは、イットに代わり、ラドローにペナルティを与えることができます。それでは、ラドローに対するペナルティをこのウインドウに記入してください。記入が終わればペナルティ発動とともに、時間も動き出します。では、どうぞ。』


「どうぞ、と言われても、ペナルティ?何を書けばいいんだ?」


『再度説明します。ペナルティに制限はございません。もう一度言います。ペナルティに、制限はございません。ご自由にお決めください。』


「そ、そうか。、それなら。」


 音声に従い、ラバーは、ペナルティの内容を書き込んだ。内容は、部下の半分の全身破裂、残りの半分は全身麻痺。ラドローも全身麻痺。かなり残酷な内容だが、これまでラドロー一味は、数に物を言わせた暴力事を何度も繰り返してきた。だから、これぐらいのペナルティは負って当然、ラバーはそう考えていた。


『ペナルティの入力完了しました。ペナルティの内容は、雇用主であるイットにも報告されます。では、ペナルティを発動します。それと共に時間も動き出します。ご注意ください。』


 時間が動き出すと、ラドローの部下の約半分が、一斉に破裂した。その光景を見た残りの部下たちは、恐れた表情をしているが、誰も逃げ出そうとしない。いや、正確には逃げ出せない。全身麻痺になっているからだ。当然、ラドローも、全身麻痺により動けなくなっている。

 その光景を見て、ラバーは驚いていた。こんなに強力で無慈悲なスキルは、今まで見たことがない。そんなイットに対抗するなど、端から無理な話だったのだ。それなら、イットの仲間になることのほうが正解。ラバーは、イットの部下になって良かったと、心底安堵するのだった。


「き、きさま、何をしやがった?」


 全身麻痺になりながらも、強がり、ラバーをにらみつけるだけの雑魚にすぎないラドローの姿は、ラバーにとっては滑稽に見えてきた。ラバーは、笑いたいのをじっとこらえて、話を進めることにした。


「いや、ラドロー。あんた。イットさんとの約束を破るからいけないんだ。これ以上、嫌な思いをしたくなかったら、言うことを聞いたほうがいいと思うな。あんたの無駄な強がりのせいで、部下が半分も死んじゃったんだよ。」


 ラバーはそう言いながら、ラドローの足を払う。全身麻痺になっているラドローは受け身をとることができず仰向けに倒れる。


「ぐはあっ!」


 みっともなく倒れたラドローに追い討ちをかけるように、ラバーはラドローの後頭部に足を踏みつけるように乗せた。これはあくまでも挑発行為。体重はかけずに、ただただ屈辱感を与えるための行為だ。


「ほらほらほら、どうすんだ?イットさんの言う通り、50000ゴールド払うのか?どうすんの?」


 ラバーが挑発行為を続けていると、急にラバーの前にイットが現れた。イットは、ラバーがラドローにペナルティを与えたことを知り、テレポートの巻物を使用して、ここに来た、というわけだ。


「おうおうおう、どうした?何だかすごいことになってるな。」


 イットの問いかけに、即座にラバーは答える。


「ああ、イットさん。こいつ、ふざけてるんすよ。50000ゴールド払う気ないらしいんです。だから、ペナルティを与えたんですよ。」


「そうか。ご苦労様。良くやった。」


 イットはそう言って、労うかのように、ラバーの肩を軽くポンポンと叩いた。ラバーは、今まで、どんなに無理難題の命令を達成しても、ラドローに誉められることはなかった。それが、大したこともしてないのにイットに誉められたのだ。その事が、ラバーは物凄く嬉しかった。


「なんだあ?それしきで喜ぶなんて、変な奴だなあ。」


「いやあ、嬉しいもんはうれしいっすよ。」


「そうか。それなら、もっと喜べ。お前のその働きに免じて、お前を正社員として雇ってやる。俺の直々の部下として。」


「えっ?いいんすか?」


「ああ。いいに決まってるだろ。どうやら、ラドロー一味ってのは、結構デカイ盗賊一味らしいじゃないか。そんな組織で幹部になったお前だ。お前が使える奴ってのは分かっていた。だが、俺の商売は、思い切り、すばやい切り替えが重要。だから、お前のその素早く決心し、ラドローにペナルティを与えたことが、素晴らしいと思ったんだ。だから、お前は、正社員になるのは当然の事なんだよ。これからどんどん稼いでいこうぜ!」


「はい。ありがとうございます。」


 2人の感度的な会話なのだが、ラバーは、ずっとラドローの後頭部に足を乗せたままだった。そんな状況にもかかわらず、まるでラドローがいないかのように話を進めている2人に対して、ラドローは怒りの感情しか沸いてこなかった。


「て、てめえら、ふざけんな。いい加減、足をどけやがれ!」


 ラドローに言われて、思い出したかのように足をどけるラバー。そして、止めの一撃とも言える挑発的な言葉を発した。


「いやあ、ごめんごめん。あまりに雑魚すぎるんで存在を忘れていたよ。」


「ふ、ふざけんな!」


 どれだけ強がろうが、全身麻痺で動けないラドロー。その姿は滑稽でしかなかった。そんな姿を見たラバーは、必死に笑いをこらえていた。そんなラバーの様子を、腕を組ながら頷き観察しているイット。


「いいねえ。あの挑発といい、思い切りの良さといい、これは思わぬ収穫だ。素質ありまくりだな。いい部下を持った。良かった良かった。」


「ありがとうございます。」


「だ、だから、2人で話を進めるな。って言っただろう!このままでは、ただですむと思うなよ?」


 こんな状況になっても、まだ、強がるラドローを見て、イットの表情が変わった。イットはラドローに近付くと、ある程度視線を合わすために、ラドローの前にしゃがむと、ラドローの髪を掴み、ラドローの頭を持ち上げた。


「ああん?まだそんなことを言ってるのか?ラドロー。いいか、約束を破ったのはそっち。なら、ペナルティを与えるのが当然だろ!それでもなお逆らうのか?お前、どこまで俺の手間を増やすつもりなんだ?馬鹿なのか?」


「ふざけるな。何が50000ゴールドだ!そんなの払うわけないだろう!」


「ふざけてるのはそっち。先に絡んできたのはお前達。その慰謝料を踏み倒し襲撃してきたのもそっち。非があるのはお前達。わかる?」


「ふ、ふざけるな!」


「ああ、話にならないな。なあ、ラバー、どう思う?」


「はい。ペナルティが足りなかったのかと。」


「そう思う?」


「はい。すいません。」


「なら、どうする?」


「はい。残りの半分の部下も破裂させてはどうかと。」


「おお、いいねえ。それでいこうぜ。」


「はい。」


 その直後、生き残っていたラドローの部下の半分が一斉に破裂さた。これで、ラバーが来てから、ラドローの部下は四分の1にまで減ってしまった。


「くそがあ。」


「まだ逆らうの?」


「なら、もう半分。」


「そうだね。」


「くそがあ。」


「もう半分。」


「くそったれ!」


「もう半分。」


「いい加減にしろ。」


「もう半分。」


 気付けば、ラドローの部下は、残り1人だけになっていた。それでもなお、ラドローは諦めようとしない。何が、ラドローの気持ちを支えているのだろうか。イットとラバーは、そんなラドローの気持ちが理解できずにいた。


「イットさん。もう、ラドローの部下は1人だけになってます。どうします?」


「うーん。ここまで気持ちが折れない奴、見たことないな。なんでだろう?不思議な奴だな。」


「ひょっとして、自分だけは助かると、そんな馬鹿な考えを持ってるんですかね?」


「何でそう思うんだ?」


「いやあ、ラドローの裏には、貴族や王族が絡んでるらしいんですよ。たまに、そういったところから依頼が来たことあるんです。暗殺やら情報操作やら。だから、そういったところから、最終的に守ってもらえると思ってるんじゃないかと。」


「なるほどね。面倒だな。」


「確かにそうですね。」


「なら、殺しちゃう?」


「え?でも、50000ゴールドはどうするんですか?」


「そんなの。この建物を調べればなんとでもなるじゃん。」


「ああ、なるほど。でも、なんか、イットさん。急いでいるように見えるんですが。」


「ああ、俺は忙しいんだ。イースト国のアベルって奴に用事があるんだ。」


「アベルって、あの、勇者? 


「ああ、そうらしいな。」


「それは、大変ですね。」


「だろ?だから、いつまでもこんな雑魚に構ってる暇なんてないんだよ。」


「それは、仕方がないですね。」


「まあ、そういうことだ。じゃあなラドロー。」


「ま、待て!待て!50000ゴールド払うから!」


 自分が殺されると分かるやいなや、急に態度を改めるラドロー。ラバーの推測は当たっていた。部下だけを殺し続けていた状況から、自分だけは殺されないとたかをくくっていたのだ。だから、自分の番になった途端に、態度を変えてきたのだ。だが、イットにとっては、もうどうでも良かった。50000ゴールドは、この建物にあると分かれば、ラドローを生かしておく理由がないのだ。


「今さら言っても遅いよ。じゃあな。」


 ラドローは、後悔の念が浮き彫りになった表情のまま、残りの部下と一緒に破裂した。こうしてラドロー一味は全滅したのだった。




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