ダウジングマップ
「シフトさん。是非、紹介したい奴がいるんですけど。」
「どうしたセシル。いきなり。」
「はい。さっき、酒場で、プジョー一味に入りたいって奴がいたんですけどね。そいつを、シフトさんに紹介したいんですよ。」
セシルは、ラバーの事を、プジョー一味に入れるために、紹介したい、と言い出した。
「へえ。それで、そいつは、どんな奴なんだ?」
「はい。俺も酒場で始めて会ったから、詳しいことは分からないんですがね。けっこう有望な奴ですよ。」
「始めて会ったのに、なぜ、有望だと分かる?」
「まあ、それは、見てもらえれば分かりますよ。今、外で待ってもらってるから、呼んできます。」
見ず知らずの者、まだプジョー一味でない者に、アジトの場所を教えるということは、絶対ない。プジョー一味の一員になることで、始めてアジトに入ることが出来るのだ。ここは、プジョー一味の拠点の一つ。本拠地のアジト以外にも、プジョー一味は、ウエスト国の至るところに、こういった場所を設けているのだ。
「おい。いいぞ。入ってこい。」
セシルに呼ばれたラバーは、大きなフードを被ったまま、シフトの前に現れた。
「どうも、ラバーと言います。よろしくお願いいたします。」
ラバーからの挨拶を受けたシフトは、やや警戒している様子だった。フードを被っていることで、顔が確認できないからである。
「おい、フードをとれ。」
シフトに言われ、黙ってフードを外すラバー。ラバーの素顔を見ても、シフトは、やや警戒しているようだった。
「お前、どこかで会ったことあるか?」
「いえ、ないと思いますが。」
「そうか?なーんか、お前の顔、見たことあるような気がするんだがな。うーん。思い出せん。」
シフトの勘は、当たっているのだ。シフトは、プジョー一味の幹部。ラバーは、ラドロー一味の幹部。お互いに大きな盗賊組織だから、過去に何度も衝突してきたのだ。だから、その間に、幹部通しが顔を会わせていて当然。だが、ラバーは、隠蔽のスキルを使うことによって、シフトがその事をハッキリと思い出せないでいたのだ。
シフトとラバーの間で緊張感が走るなか、その空気に耐えられなくなったセシルが、話を進めようと焦っていた。
「ま、まあまあ、とりあえず、シフトさん。ラバーを、プジョー一味に入れてやることは出来ませんかね。」
「うーん。」
答えを出さないシフト。ますます焦ったセシルは、ラバーの方を見て、懇願するような表情で頼み込んだ。
「ほら、ラバー。シフトさんに、お前の技、見せてやれよ。」
「………」
ラバーは、無言で、一瞬にして、シフトの背後に周り、すぐに元の場所に戻った。その動きを見たシフトは、ラバーの動きに対して興味を持ったのか、ラバーに質問を開始した。
「お前、その動きは?」
「はい、俺の能力です。」
「ほう、詳しく教えろ。」
「はい。今のように素早く相手の後ろに回り込むことができる、「縮地」というものです。これを使うことで、相手との距離を一瞬で無いものにできるどころか、背後にまわることもできます。」
もちもん、これは、ラバーの嘘である。ラバーの本当のスキルは隠蔽。だが、嘘の気配をスキルにより隠蔽しているから、当然、シフトも、ラバーの言うことを信じてしまった。
「ほう、これなら、戦闘員とてなら、使えそうだな。よし、お前をプジョー一味に入ることを認めてやろう。今から、アジトに案内してやる。付いてこい。」
「はい、ありがとうございます。」
ラバーは、セシルに対して、深々と頭を下げて礼を言った。ラバーのスキルが優秀すぎるから、あまりにも容易に、プジョー一味のアジトまで行くことができる。ラバーは、頭を下げている時、周りに見えないようにしながらほくそ笑んでいた。
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シフト達がプジョー一味のアジトに向かう途中、ラバーは、シフトにプジョー一味の事について質問をしていた。
「シフトさん。どうして、プジョー一味は、こんなにも巨大な組織になれたんですか?ウエスト国では、知らない者がいないくらいに有名です。盗賊一味が、ここまで表沙汰に有名になるなんて、とてもあり得ないくらい、すごい事だと思っていたので。」
ラバーの、よいしょともとれる、プジョー一味の事を讃えたような質問の仕方に、シフトは気を良くし、自慢気のように答えだした。
「それはな、魔道具のお陰なんだ。」
「ま、魔道具、ですか?」
「まあ、知らないのも無理はないか。本来なら、魔道具というものは、位の高い貴族か、王族しか所有していない物。だけどな、俺達プジョー一味は、貴族や王族達の依頼を受けていくことで、謝礼として、一つの魔道具を手に入れる事が出来たんだ。どおだ、すげえだろ。」
「は、はあ。」
「ああ、すまん。魔道具っていうのはな。古代文明の遺作のような物だ。その物に、永遠に無くならない魔力が込められていて、所有者が魔力を込めることにより、それに反応して、様々な効果を発揮するっていう、とんでもない代物なんだよ。」
「え、永遠に、ですか。」
「ああ、そうだ。すげえだろ?」
「は、はあ。まあ、確かに、永遠、と聞けばすごいとは思いますが、実際、その魔道具が、どんな効果を持っているか分からないことには、リアクションしづらいですね。」
ラバーの質問の仕方は、実にうまいものだった。最初は、相手の気を良くさせることで話を始めさせ、詳細な事を聞くために、相手を煽るように仕掛ける。通常の人間なら、こうすることで、全てをしゃべってしまうだろう。シフトも、そういう人間のうちの一人だった。
「まあ、まあ、聞いて驚くなよ。俺達プジョー一味が所有している魔道具は、とある地図なんだ。」
「地図?」
「ああ、その地図は、欲しい物なら、どんな物でも、その場所を明確に記してくれる、という、とてつもない便利な物なんだ。」
「ど、どんな物も、ですか?」
「ああ、そうだ。それこそ、魔道具の位置まで分かるはずなんだが。」
「と、いいますと?」
「いや、この地図にも、欠点があるんだ。」
「欠点、ですか?」
「ああ、本来、俺達は、この地図を使い、世界中の魔道具を集めようとしたんだが、肝心の魔道具の情報が、一切ないんだ。ただ、魔道具、とだけでは、全く地図には表示されない。だから、魔道具の情報集めをしなければ、この地図は役に立たないんだ。」
「それなら、どうして、プジョー一味が大きくなれなのは、その地図のお陰で、と言ったのですか?」
「それはな、魔道具以外のことを、地図で探したからに決まってるだろ?」
「ああ、なるほど。」
「そういうことだ。」
ラバーがシフトに質問したことで、ラバーの狙いである、ダウジングマップが、プジョー一味のアジトにあるということが確定したのだ。後は、プジョー一味のアジトのどこに、ダウジングマップが保管されているのか、普段は、誰が、ダウジングマップを使用しているのか。ラバーは、プジョー一味のアジトに到着する前に、その事も、明確に知る必要があると考え、質問を続けた。
「それで、その地図は、プジョー一味になったら、俺も使っていいんですか?」
「おうおう、いきなりだな。やっぱり、欲しい物の場所が分かるってなると、使いたくなるもんだよな。まあ、最初のうちは無理だが、ある程度実績を残したら、使えるようになるぜ。」
「ということは、シフトさんも使ったことがあるんですか?」
「あたりめえだろ。俺は、プジョー一味の幹部だからな。ていうか、幹部じゃなくても、ほぼ皆使ってるけどな!」
「皆、ですか?」
「ああ、良く考えれば、当たり前のことなんだぜ。第一、行方の分からない物を闇雲に探すより、地図を使えばすぐに分かるんだ。効率がいいだろ?だから、その地図は、大会議室の中央に置いてあるんだぜ。」
「なるほど。」
シフトの答えにより、ダウジングマップの存在と、保管位置まで把握できたラバーは、納得したように周りに見せかけて質問を終えた。ちょうどその時、一行は、プジョー一味のアジトへと到着した。すると、門番らしき人物が、シフトを見て驚いていた。
「シフトさん。お早いお戻りで。何かあってんですか?」
「いや、有望そうな奴を見かけてな。そいつをプジョー一味に入れてやりたいと思ってな。」
「そうですか。それで、そいつはどこにいるんですか?」
「いやいや、どこにいるって、ここまで一緒に来たんだから、ここにいるに決まってるだろ?」
シフトは、門番の質問に対して、バカにしたように笑いながら後ろを振り返った。だが、シフトの後ろには、同行しているセシルのみで、ラバーの姿はなかった。
「あれ、おかしいな。おい、セシル。ラバーの奴、どこへ行ったんだ?」
「あれ?さっきまでいたと思ったのに?いつの間にかいなくなってる。」
ついさっきまで、間違いなくいたラバーの姿が完全になくなったことにより、シフトとセシルは、訳が分からず首をかしげていた。この時、ラバーは、気配だけでなく、姿そのものを隠蔽していたのだ。周りから見えなくなった隙に、プジョー一味のアジトへと、人知れず侵入していたのだ。隠蔽のスキルを使っていることにより、まさか、ラバーがプジョー一味のアジトに侵入していることなど、誰も知るよしがなかった。
ラバーの目的は、ダウジングマップを奪うこと。先程シフトに質問したことで、ダウジングマップがどこにあるか把握出来ていたラバーは、隠蔽のスキルも相まって、容易く、ダウジングマップを手にすることができた。そしてそのまま、プジョー一味のアジトを後にしたのだった。




