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身体が小さくなったということは、歩幅も狭くなったということで、いつもの道のりのはずが想定よりもだいぶ歩いた感じがする。

体力も落ちているのか、息切れしてきた。


ちょっと、明日から運動しよう……密かに決意していると、


「疲れた?」


と、クリストフに抱き上げられてしまう。

文官のくせに力が強い。


そういえばいつだったか、時々武官に混ざって鍛えていると言っていた。なかなか筋が良いらしく、近衛の隊長からは、幾度となく所属替えを提案されていた。

引き抜きはすげなく断っていたけど、鍛錬は続けているそうだ。

もしかしたらデスクワークが多いため、健康のためにやっているのかもしれない。


「……少し休めば歩ける」

「休んでたら遅くなっちゃうよ」


父様は後から来ると言っていたので、家からは2人で歩いてきた。

従って、助けを求めようにも誰もいない。


諦めて、せめて顔を直視しないように腕を回して肩口に顎を乗せた。

身体は密着してしまうけど、あの顔が至近距離に見えるよりはマシだ。何より、しっかりくっついた方が体勢が楽である。


思わず、ふうっと、ため息が漏れる。

存外に大きな息を吐いてしまい、クリストフの耳元にかかる髪が揺れた。


吐息がくすぐったかったのか、クリストフがびくっと身を震わせて、何やら唸る。


「あ、ごめん」


くすぐったかった?と、乱れた髪を撫でつけてやる。


「……いや、うん、大丈夫……たぶん」


全然大丈夫ではなさそうな様子だったが、「ちょっと今は耳元で喋らないで」と言うので、黙っておくことにした。


また、周囲の探るような、若干痛々しい視線を受けて執務室に向かう。


突然、こんなに大きな子どもを抱えて出勤する、特殊な部署の、しかも優秀と名高い美形の官僚を目撃したら、一体どうしたのかと怪訝に思う気持ちはよくわかる。


「あの子は誰だ?」「昨日も見たな」「もしや隠し子?」「……羨ましい」

ひそひそと囁かれているが全く頓着せず歩く様子は、いっそ清々しい。


私は、いたたまれない気持ちでいっぱいだが。


ようやく執務室に着き、安堵する。

窓を開けて換気し、お茶を淹れて一息ついた。


昨日の、光る紋章が出現したあたりをクリストフがじっと見つめている。

すっと膝をついて、床に手を置いた。


「何かわかりそう?」

「いや、何も。反応がない」


物に関わる現象だったなら何かわかると思ったんだけど、とクリストフは首を横に振った。


ということは、あれは少なくとも『人によって起こされた現象』ということになる。


真っ先に考えられるのは異能。

問題は、誰のものかということだ。


記憶している限り、そんな能力の登録は無かった。


王族の遠い親戚の中には、先祖返りでごく稀に異能を持っているのに気づかれずに過ごしてしまう場合もあるらしい。と聞いたことはあるが、そういう場合の能力は、然程影響力の強いものにはならないとも聞いていた。


血が薄くなれば弱まるものなのだ。


人の身体年齢を操作するほどの異能となると、気がつきませんでした、では済まないはずである。


2人でしばし考え込むが、材料が少なすぎて検討が進まない。


「まあ、あとで父様に相談してみよう。叔父様にも後で会いに行くし、何かわかるかも」

「そうだね」


そう言って、私を膝に乗せる。


「……」


抗議の意味を込めてちょっと睨みつけてやるが、にんまり笑ってがっちり腰を固定してくる。


お互い無言の攻防を続けていたら、ノックの音と共に父様がやってきて、


「クリスばっかりずるいなあ」


と、参戦してきた。


……もう、全員接近禁止にしたい。

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