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俺のベッドの上で、すやすやと小さな寝息を立てて少女が寝ている。
枕に散るのは、少し癖のある白金の髪。切長の涼しげな藍色の瞳は閉じられている。
色々あって流石に疲れたのか、着替えの最中からウトウトし始め、ちょっと目を離した隙にそのまま寝てしまった。
彼女はベルナドット。
4歳の時にこの家に引き取られた俺の、義姉だ。
今日の昼に起きた不思議な現象に巻き込まれて、見た目は出会った当時の姿に若返った。
彼女が謎の光に包まれた後、この姿で現れたときには心臓が止まるかと思った。本人に間違いないことはすぐにわかった。もとより、俺がベルのことを間違えるわけがない。
見る限り怪我などなく、気を失っているだけだとは思ったが、目を覚ますまでは気が気ではなかった。
少しの間の後、目を覚ましたベルの
「うん、クリス、大丈夫だった……?」
という声を聞いた時、止まりかけた心臓が跳ね上がるようだった。
ベルだ。
中身はそのまま、見た目だけがあの頃のベルだ。
こんなことがあるだろうか。
ずっと叶わないと思って諦観していたことが、突然実現した。
嬉しさのあまり力一杯抱きしめてしまい、苦しい思いをさせてしまったことは反省している。
でも仕方ない。
ずっと、ずっと、ベルが歳下だったなら、義姉弟の関係性を変えることができたなら、と叶わないことを知りながら願い続けていたのだ。
その存在を確認したくて、少々力がこもってしまったのは許してほしい。
初恋の少女が、目の前にいる。
そして、俺は今でも初恋を引きずっている。
ベルにとって、俺はあくまでも義弟で、恋愛対象として考えたこともないのはわかっている。
軽口に見せかけてアプローチを仕掛けても、全く相手にしてもらえない。彼女にとっては、俺はいつまでも子どものまま。年齢差とは酷なもので、逆転することなどない絶対的な差であり、義姉弟という関係性がひっくり返ることはない。
そんな中でも長いこと持ち続けた恋心は、いまや執着をはらみ日に日に肥大していた。
異能のために結婚することを諦めているベルは、言ってみれば、本人がその気にならなければ誰のものにもならないということだ。
それなら、家族としてなら、いつまでも義弟として、誰よりも近くにいられる。恋が成就することはないが、俺が義弟の枠を外れなければ離れる心配もない。それでもいいと思っていた。
……我慢が過ぎるあまり、我ながら目的を見失っていると、昨日までの自分に言ってやりたい。
眠るベルの頬をそっと撫でる。
ベルにとっては不幸な事故だったかもしれないが、俺にとっては僥倖だ。
もう、子ども扱いはさせない。
俺に捕まってもらう。
「おやすみ」
密かな決意を胸に布団に潜り込み、ベルの額にキスをして眠りについた。