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あれからぎゅうぎゅうぎゅうと私を絞め殺す勢いで抱きつくクリストフに「死ぬ!圧死する!」と必死に訴え、やっと離してもらえた。


改めて確認すれば、着ている官服も靴もサイズが合っておらず明らかに大きい。

靴は脱ぎ、服は引きずるわけにもいかないので、袖と裾をくるくると捲って大きな窓に自分を映す。


そこにいたのは、記憶にあるかつての自分。

ちょうどクリストフが我が家にやってきた当時の、12〜3歳ごろの姿だった。


「うそ……」


眩暈がし、ふらふらとソファに座る。

こんなことってあるだろうか。


呆然としていると、隣にクリストフがやってきて、無言で私をひょいと横抱きに膝に乗せる。

……何してるんだ……?


顔を上げて子ども扱いすることを責めるように軽く睨むが、意に介する様子はない。さらに片手は私の腰に回し、固定している。

どうやら膝から下ろす気はないようだ。

細身ながらがっしりした体格なので、これは少々抵抗したところで無駄だと諦める。


クリストフはといえば、いつになく上機嫌で、何かぶつぶつ言いながら人の頭を撫で回している。


「かわいいなあ、小さいベル。……かわいい本当かわいい」


あまりにも意外な独り言が聞こえて、背筋に冷たいものが這い、ひゅっと息を呑む。

おかしい。義弟が壊れてしまった。


「あの、クリス、状況をね?整理したいんだけど……聞いてるかな?」


「聞いてるよ。……ああ、かわいい。上目遣いでこっち見るの新鮮」


「いやいやいや、これ聞いてないよね?聞いて?ねぇ、クリス?クリス君?」


頭を撫でる手を掴むが、一向に可愛がりが止む気配はない。


あーもう、こんなことしてる場合じゃないと思うんだけど。

私的には原因不明の若返り現象が起こってるわけで、結構一大事だ。


そうこうしていると、ドアがノックされて開く。


「ベルナドット、いるかい?」


返事する前に開くのではノックの意味が無いと思うが、

ドアから顔を覗かせる人物は、私相手だという気安さもあるのか気にする様子もなく、スッと部屋に入ってくる。


「父様」

「さっきクリスに預けた書類なんだけど……」


話しながら、父のイーサンがこちらに目をやってピタリと止まってしまった。


「……ベル!?」

「はい」

「……ベル?」

「そうです」

「えぇ……なんで私の娘が子どもになってるんだ……?」


向かいの椅子に座り込んでしまった父に、先程起きたことを報告する。

急に光る紋章が現れ、光に包まれて気を失い、気が付いたら若返っていたこと。その現象がなんだったのかは把握できていないものの、体調に問題はないこと。

クリストフが言うには、光に包まれたまま徐々に身体が縮み若返っていったらしい。床の紋章が消えた時には今の姿になっていたと。


……話の最中、私はクリストフの膝に乗ったままだ。


小さいと言うけれど、実際のところ幼女じゃあるまいしそんなにコンパクトサイズではない。重たくないのだろうか。


「……経緯はわかった。起きた現象については、今のところ再発の危険は無さそうだ。ちょっと思い当たることがあるから、明日から詳しく調べることにしよう。ベル、今は問題ないかもしれないけど、体調に異常があったらすぐに言うんだよ」


普段はふわふわした父だが、流石に王族であり異能研究室の責任者を担うだけのことはある。

この突然の異常事態も、短時間で腹に落としたようで、落ち着いた様子が頼もしい。


ところで、と父がクリストフに視線を移す。


「どうしてクリスはベルをずっと抱っこしてるんだい?」

「かわいいので」

「小さくなった娘を私も抱っこしたいな」


父様のお膝においで、と腕を広げる父に、クリストフがきっぱりと言う。


「ダメです、俺のです」

「いや、私の娘だからね!?」

「俺のです」


なんの争いなのか。


「……本人の意思を無視して話をするの、やめてくれませんかね?」


そもそも、膝に抱っこされるような年齢じゃないから。

どこまで本気かわからない2人のやり取りを遮るように、口を挟む。


「とりあえず、今日はもう仕事にならないので帰ります」

「そうだね、少し休むといい。明日からは忙しくなるだろうから」

「じゃあ、俺も一緒に帰って、家の方には説明しておきます」

「助かるよ、それじゃ後で」


方針が決まったことで落ち着きを取り戻した父は、当初の目的だった書類を持って部屋を出ていった。


「さて、帰ろうか」


未だ私を膝に乗せたクリストフに声をかけると、ん、と頷き膝からおろしたかと思えば、立ち上がってすぐに抱き上げた。


「自分で歩けるから!」


おろして、とじたばたするがびくともしない。


「靴もないのに歩かせられないよ。いい子だから大人しくしてて」

落ちないように捕まってね、と言って、さっさと進む。


そうして、明らかにサイズの合わない服を着た子どもを抱えて歩く青年、というおかしな組み合わせの我々に向ける周囲の視線が痛い中、帰路についた。

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