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夢を見た。
気を失う前に見た、クリストフの泣きそうな顔。
初めて会った頃、あんな顔をしていたことを思い出した。
クリストフが両親を亡くし我が家にやってきたのは、私が12歳の頃。クリストフはまだ4歳だった。
キラキラした金髪に翠の瞳の、それは可愛らしい美幼児であった。
不幸な事故で儚くなった彼の実の母は、前王である叔父と私の父の異母妹で、兄弟に大層可愛がられた優しい心根の美少女であったという。
その忘れ形見のクリストフに対する大人たちの過保護ぶりも半端ではなかった。
そうして我が家にやってきたものの、両親を失った幼児の寂しさが簡単に癒えるはずもなく、かといって大人たちはそれぞれ仕事があり付きっきりというわけにもいかず、塞ぎがちなクリストフの相手をするのは私の役目だった。
甘えん坊で泣き虫のクリストフだったが、次第に心を開いて懐いてくる様子に、当時自分の異能について悩んでいた私も癒されたものだ。
それから環境に慣れ、周囲の大人にも慣れて、すくすくと成長し、15年が経って。クリストフは「ベル姉様」と愛らしく私について回っていた頃の面影はなく、見た目だけは美幼児を美形に進化させた、図体と態度が大きい青年になった。
身内贔屓を抜きにしても、勉学も剣術も優秀で、どこへ勤めても問題無いと思うのだけど、わざわざ私と同じ研究室に所属を希望したという。そんなところは、まだ「姉様」として慕ってくれているようで、可愛いところもあるんだよな……。
そこで、ふっと目が覚めた。
私を呼んでいる声がする。
「……ベル!」
倒れ込んでいる私を涙目で覗き込むクリストフがいる。
大きくなっても泣き顔は昔のままだなあ・・・とぼんやり思いながら
「うん、クリス、大丈夫だった……?」
声をかけながら起き上がろうとして、つん、と自分の袖を掴んでしまい、バランスを崩してしまう。
「うわ……」
ふらついた私をクリストフが支えてくれた。
あれ、こんなに大きかったっけ。
「ありがとう、なんともないから」
起き上がれたので座り直そうとするが、離してもらえない。
「?……クリス?」
「信じられない……ベル……ベル……」
長いまつ毛に縁取られた大きな瞳に涙を溜めて、片手で私の頬をするりと撫でる。
何が信じられないのか怪訝に思っていると、支えられていた背中を抱き寄せられた。
「!」
身長はとうに私を超えている大きな身体に、ぎゅうと抱きしめられる。胸に顔が当たって苦しい。
……いや、ちょっと待て。
いくらなんでも大きすぎるんじゃないか。
クリストフの方が体格は大きいけれど、私は女性にしては背の高い方だし、座っていたって、こんなに見上げるほど身長差はなかったはず。
「クリス、大きくなってない?」
胸の中でもごもごと疑問を口にする。
「……なってない」
とりあえず落ち着いてもらおうと、クリストフの背中をポンポンと宥めようとして手を回そうとしたところで、気がつく。
届かない。
腕が……自分の感覚より短い……?
事態を把握できずに困惑する私に、
「ベルが小さくなってる」
なぜか嬉しそうにクリストフが言った。