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ゴーン……ゴーン……と、遠くで2回鐘の音が鳴る。

それは今、まさに王子が産まれたと、国中に知らせる大聖堂の鐘の音だ。


その音で同じ城内のどこかで行われている出産が無事であったことに安堵し、胸を撫で下ろす。

それと同時にこれからのことに意識を向けた。

待望の世継ぎ誕生に、これから国中が祝福を贈るだろう。


我々も忙しくなるな……と、感慨に耽っていたところ、ノックもなく執務室のドアが開き1人の部下が入ってきて、

「はい、これ。急ぎみたいだからよろしく」

と1枚の書類をよこしてきた。


「……クリス、ノックはするように」

「ベルと俺の仲じゃない」

「常識と礼節って知ってる?」


もう何度目かの注意を告げながら小さくため息をつく。


「大好きな俺に会えたんだから、もっとうれしそうな顔してよ」

「歳下には興味ないね」

「冷たいなあ、俺はベルに会えて嬉しいのに」

「毎日会ってる……ていうか住んでるところも職場も同じだ」

「そういえばそうだねぇ」


軽口を叩きながらにっこりと小言を受け流し、ソファに優雅に腰を下ろすこの部下は、8歳下の義弟だ。


私、ベルナドット・ハリスは王宮内にある異能研究室に属する研究者である。

一応は上席研究員の肩書きを持っており、部下がいる。

それが、義弟ことクリストフ・ハリスだ。


異能とは、王家の血縁者が持つ特殊能力のようなもので、その内容は様々。植物の成長に関与できる能力や、他人から認識されにくくする能力、物理的にものすごく身体が硬い、なんていうのもある。


その多様な能力が良き方向に活かされるよう、研究・管理を行うのがこの研究室の役割だ。


研究室の性質から、所属する一部の人間は王族である。

かく言う私と義弟も王族の末端で、それぞれ異能を持っている。


義弟の能力は【無機物と会話できる】こと。

正確には、言葉を発するわけではなく、質問に対しての答えの意思みたいなものを汲み取ることができる。


例えば、ノックも無しに入室してくるのは、ドアに『入って良いか』という確認をし、了承を得た結果の行動だ。


この場合、部屋の主人は私なので、ドアは私が拒否の姿勢を見せない状態だということを理解した上で了承しているということらしい。


ドアに確認して了承を得るってどういうことなんだ、というかドアが私の様子を伺ってるってこと?など、思うことはいろいろあるが、あまり深く考えても仕方がない。異能とはそういうもので、常識では測れない能力なのだ。


受け取った書類に目を通す。

先程産まれたばかりの王子について、異能検査の申請だった。事前に用意していたものが、出産の知らせを受けて早速事務処理のルートに乗ってきたというところか。


まあ、早く行うに越したことはない検査だ。

持って生まれた能力によっては、その後の人生を左右するものもある。

例えば私のように、特殊な条件下でなければ恋愛も結婚も難しい異能を持つものもいる。

もし世継ぎがそのような能力を持っているとなれば、国の一大事になりかねない。


受付済みのサインを記入して、ソファに座る義弟へ声をかけようとした時、ふと違和感を感じて目を下にやると、

デスク下、足元に光る模様が浮かんでいた。


見覚えのあるその模様は……王家の紋章だ。


ざわっとした感覚が全身を襲う。

なにか良くない気がして慌てて立ち上がる。

この上にいてはいけない、避けないと!


慌てている間にも足元の光は次第に強くなっているようで、眩さに目を開けていられなくなる。


「ベル!ベルナドット!」


名前を呼ぶ声に細めた目で光の向こうを見れば、驚いた顔で義弟がこちらに手を伸ばしていた。


「クリス!」


義弟に捕まろうと伸ばした手は光に遮られて届かず、私はそのまま気を失った。

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