吉凶悔吝(きっきょうかいりん)成すべきは。慢心せず、落ち込み過ぎない。
"よくお参りでした"
御守りを受ければ残す工程はあと僅か。
ふう。何とか、事なきを得られそうですーー
◇◇◇
「結び終わりましたね。では行きましょう」
「うん……」
二人、今年初めての参拝を終えて。気にかかるのは彼女の様子とその服装。
どことなく元気がありません。暗い表情は、お神籤の結果だけが理由と思えない。
「疲れてはいませんか? 結構並びましたし、体も冷えたのでは」
「ううん、平気。和装って中に着込んでるんだよ。それにマフラーも」
彼女の首には男物のマフラー。待ち合わせの場で強制的にお貸ししました。……少々、強引だったことは認めます。
(毛皮は殺生にあたるのでは、と悩んで。結果巻かない選択をするなど)
あり得ません。冬は防寒が第一なのに。
「着込んでいても限界があるのでしょう。巫女の方も手が冷たくなっていました」
あちらは勤めですので、忍耐も必要かも知れませんが。あなたには、要りませんよね。
「でも、可愛いと思ったでしょう?」
「な、何をーー」
確かに……いえ。今は、そんな話はしていないのですが。
「やっぱり返す」
「! 駄目です」
一体どうしてそうなるのか。マフラーを外されては意味が無い。せめて、ここを離れてからでなければ。
「ーー痛っ」
「っ、動かないで下さい」
マフラーに髪飾りが引っかかっているようです。無理をしては髪が抜けてしまいますよ。
「……ごめん」
「この程度、謝ることではありません。ですが」
ーーぐるぐる。再度マフラーを巻き直す。
「!?」
「返却は受け付けません。精神衛生の上で最重要なので」
それと、これを。不浄のものを祓って頂きます。
「健康祈願の御守りです」
健やかに過ごせるよう。共に出かけたせいで風邪をひかせたとあらば、二度と外出の許しを貰えなくなりますから。
少し、違った意味も加わってはいますが。
「……一人で行っちゃうから。私、邪魔なのかと思ってた」
「邪魔と言うより、用の無い者が列に並んでは迷惑。それだけです」
説明するまでもない単純明快な理由です。
(まさか、これに怒って?)
私のマフラーを巻きたくなくなるほど。
「邪険にするなら、誘ったりしません」
私を待つあなたの姿が、どの様に映るか。見えていないから言えるのでしょう。
「しかし。試すつもりなら、効果は絶大と言えますね」
そうして見ているだけで満足出来るほど、私は殊勝ではありません。
「やっぱり。振袖より巫女装束なんだ」
言っている意味が分かりません。あなたが身に纏うなら同じです。
「あかい振袖。緋色の映えるあなたには、巫女装束もとてもよく似合うに決まっています」
そうで無ければこんなに困っていません。
「そ、そんなの。だって、全然こっち見ないから……」
「はあ。もう忘れたんですか? 信じなさい、と(籤に)記載があった筈です。ーー情、を」
<恋愛>愛情を信じなさい、と。私はあなたの信頼に足りませんか。
「私は狭量なんです。あなたの、その……衿の開きよりも」
面と向かえば眩しくて、背後に回れば露な襟首。
全ての視線が、あなたに向いているような気がして。詣でる為の装いに、口を挟むべきでは無いと分かっているのに。"他の誰にも見せたくない"我が儘が溢れそうで。
「それに、このような場で不埒な真似をする訳にいきませんから」
神前での邪な考えは不敬。礼を失する行為です。なのに。無意識にも手が伸びてしまわないと限らない。
「ですので、マフラーは巻いたままで。分かりましたね」
「は、はい……」
丁寧語、とは。引かれてしまいましたか。これでは、どちらが祓われる側か分かりませんね。我を、抑えきれませんでした。
"自我を抑えれば大吉"
私の方は失敗です。でも、今年はまだまだ始まったばかりですし。
これを次に生かし、改善して行きましょう。いつだって未来を担うのは、己のとるべき行動のみです。ええ、勿論。
この先の吉凶を知るは、神のみぞーーですけど……。