第8話 にわかには信じがたい
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神さまを自称する女の子は、嘆願書を身に取り込んでしまった。
死ぬ――彼女は、神宮は、死んでしまう。
慌てて救急車を呼ぼうとするが、神宮はそんな俺を不思議そうに見つめてきた。
「どうかした?」
「いやいや、どうかしたって、お前......嘆願書を飲み込んで......って、平気なのか?」
「平気も平気だよ? これも神さまの業務の一部!」
「業務って......大道芸の間違いじゃ」
「私にも大道芸の人にも失礼」
笑えない、笑えるはずがない。
非現実的なことが、俺の目の前で起こってしまった。
「あれは、なにをしたんだ?」
「願いを叶えた」
「願いを? あれで?」
「あんなことで願いを叶えられるのが――神さまなの」
「にわかに信じられない。正直、平気そうにしていること自体、ありえないことが眼前で起きたという認識だが......やっぱりまだ信じられない」
「でも、井筒くん、真島くん、五十嵐くん、その三人の願いが叶っていたら――戸出くんも信じてくれるよね」
「それは......そうだな......いやしかし、そんなはずはないと思うがな......」
「ちょっと! 見てから言ってよね」
「......ああ」
「それじゃあ、三人のところに行こっか」
......え......今から?
こいつ、正気か?
いや、神さまを自称する女子高生が正気なわけがないか......。
「もう朝だぞ?」
「うん......初めて二人で迎える朝だね......」
「妙な言い方をするな! 俺が言いたいのは、眠いってことだ。嘆願書の選別が長すぎるんだよ」
「あれでも急ピッチで仕分けたつもりだけれど......まあ、とりあえず行こうよ」
「お前は鬼か!」
「神さまだよ」
「神宮は、眠気を我慢できるタイプなのかもしれんが、俺は無理だ。これ以上、脳が繰り返し出してくる救難信号を無視できない」
神宮がじろっと睨んできた。
「はあ......根性なし」
「根性はあるが、眠気は根性でどうにもならん」
「......わかった。お昼になったら家まで迎えに行ってあげるから、それまで寝ていること!」
口ではそう言ってくれるものの、納得いっていない様子だ。
だがしかし、無理なものは無理だ。
俺は、睡魔と戦闘しながら、神宮に住所を伝え、下山した。
もしも神宮の妄言が、妄言でなかったとしたら。
ありえない、ありえるわけがない。
神さまが存在したら、あの包むような笑顔は――今も隣にあったはずなんだ。
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