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【私に託して】



ここは?


真っ暗な闇。右も左も分からないし、先も見えない。そんな場所。


「誰か・・・誰かいますか・・・?」


私の声だけが響く。返答はない。

ふと、発した自分声がつい先ほどまでの高い子供の声ではなく、25歳の普段の私のものだと気づいた。


「あ、あーー、あーーーー!」


嬉し懐かしで思わず大声出しちゃった。

恥ずかしくなって一応辺りを見渡してみたけどやはり変わらず人の気配一つない。



────さて、どうする?



突然乙女ゲームの世界に迷い込んだ後だからか、妙に落ち着き払っている自分をほめてやりたい。

大声を出してみたものの特になにも起こる様子はないし、暗すぎて自分の姿も確認できない。


一つ、それらしきものがあるとすれば・・・


「これ、だよねぇ」


自分の真下、そこに明らかに不自然なものが一つ、いや、一輪無造作に置かれている。

まるで摘んできたその花をちょっとの間そこに置き、席を離れたみたいな。



≪教えてくれてありがとうございます!あの・・・、良ければこれを・・・!≫



どこからか、声が聞こえてくる。


その声の主を、私はよく知っていた。



≪受け取っていただけるんですね、嬉しいです≫


それは、少女の声。


≪貴方はいつもここにいるんですか?≫


≪そうなんですね・・・そうだ!私、また来ます!明日も!≫


瞳を閉じる。この声だけに、集中する。




≪明日、貴方に伝えたいことがあるの。どうしても、貴方に────≫



声の主が変わった。



いや正確に言えば、声の主が、大人になった。

驚き、思わず目を開く。





≪必ず明日、会いに来るから、



必ず、伝えるから、



待っててね、暁月(アカツキ)






視界が開ける。

凄く眩しい。目くらましにあうみたい。




思わず目の前から目を背けた視界の隅に、

また、あの女性が“あの花”を胸もとで持って立っていた。



いつの間にか、足元にあったあの一輪の花はなくなっている。



そうか、あの花は、あなたのものだったんだね。


今度は、置き忘れちゃだめだよ。


一つだけ残して、置いて行っちゃだめだよ?



白い光に包まれて、私はまた意識を手放した。

暗闇の次はこれか。


悪態付く私の意識は「私」のままで。




≪大丈夫だよ≫


≪次こそ必ず≫


≪必ず届くよ≫





ずっと暗闇に響いていた“私”の声に、

「私」はそう返した。




かすむ視界の最後にとらえた彼女は、

安心したようにあたたかな笑みを浮かべて、涙を流していた。







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