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君を守るおまじない4




とっさの行動だった。


腕は掴まれたまま、片腕で睡蓮の頭を抱き寄せ包み込む。

はたから見たら滑稽な格好をしてると思う。子供が子供を包んで、まるでダンゴムシのように丸まって。


衝撃に備え身体中に力が入る。それでもめいいっぱい睡蓮を体の下に押し込んだ。

苦しいだろうけどお願い大人しくしてて!


刀が風を切る音──



「……っ!」


ぎゅっと目を瞑った。

しかしいくら待っても斬撃の痛みは走らない。


恐る恐る顔を上げると、頭上数センチでピタリと止まった刃先が見えた。

冷や汗が背にも額にも流れる。


「どいて?暁月」

「…っ」


怖い。顔が見れない。頭をあげられない。刃物を向けられたのなんて人生初めてだ。刀なんて尚更。

そうよね、この時代持ってる人は持ってるし、切る切られるなんて日常茶飯事よね。でも私にそんな覚悟ない。


それでも、こんな幼い子どもを目の前でみすみす殺させるわけにはいかない。

もう一度睡蓮を強く抱きしめ、ブンブンと首を振る。

離しちゃいけない。だって睡蓮はこんなに


こんな…に…


「…怯えているの」

「…………」

「この子は何かに怯えてる!これ以上怖い思いはさせちゃダメ!」


腕を掴まれた時もそうだ

流れる血を舐められた時も

いや、その前から、

彼が目を覚ましたその時から

私が彼に触れたその瞬間から



─彼の体は震えていた─


あの獣ののような荒々しさの中に、彼の警戒心を感じた。彼の恐怖心を感じた。何かを恐れ、怯え、苦しんでいるように感じた。


獣は獣でも、手負いの獣。

虐待されていた保護犬を前にしているような、そんな緊張感。



大人しく私の下に押しつぶされている睡蓮。

急に抱きしめたから暴れるかと思ったけど、全くそんな気配はない。一言も発さない。


「大丈夫、怖い思いなんてさせないよ」


こんな状況でも、桔梗の口調はいつもと変わらない。

一見優しいようで、どこか妖しく淡々として。


「鬼はね、首を落とすか心臓をつくしか死なないんだよ」


どうしてそう簡単にそんなこと言うんだ。

ゆっくりと頭をあげる。

紫色の目と、合った。その目から感情が読み取れない。



「恐怖も痛みも、ほんの一瞬さ」


艶めかしいその唇が、弧を描く。 その顔はとてもじゃないが刀を持って子供に振り下ろした様には見えないだろう。

私には、笑ってるようで笑ってない。白蘭の笑みともまた違う。


笑顔の裏に、明らかな殺意を秘めている。


「鬼おにって…さっきから何言ってるの」


出来る限り会話を続けよう。彼の気を、殺意をそらせれば。

私の知らない情報をつかめるチャンスでもある。


それにおそらく彼は、私を切らない。


「鬼っていうのはね人を喰うんだよ。人を喰って生きてるんだ。わかる?暁月。目の前に鬼がいたら、そこに立ってる鬼は何人もの人間を殺して、存在しているってことなんだよ」


ゆっくりゆっくり。子供に読み聞かせるように、優しく優しく。

その刀先は向けたまま、刀はいっさ動かさず語りかける。

動いたら殺す、と言われてるみたい。


「化け物だ」


私の下で、睡蓮がビクりと竦んだ。

掴まれていた腕はもう痛みは感じない。力を弛めてくれてるの?


「だからって、いきなり殺すことないでしょ」

「へぇ信じるんだ、そんな非現実的なこと」


間髪入れずに桔梗が告げる。

そうか、しまった。ここがゲームの世界だから、なんでもありだと思ってた。他のゲームだって鬼どころか人外ものや機械ものもあったから特にすんなり話を受け入れてしまった。普通は鬼にくいつくはずか、なんのことだと話にもならないはずか。


彼はその瞳を細めた。怪しまれたか。はぐらかそうにもはぐらさせない。彼に通じる気がしない。

私はただ唇を噛むしか無かった。


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