始まった乙女ゲー生活6
あれ以降妙に樒兄さんとは顔を合わせづらい。
あちらは何事も無かったかのような態度をとってくるものの、明らかにベタベタと張り付いてきている。私は不自然にならないよう相手の機嫌を損ねない程度にかわしていく。
囲いたいなんて言われたもんなぁ。
お世辞にもいい意味とは言えないその言葉に、私はかなり警戒していた。
「なんかあったのか?」と睡蓮たちに問われても、何もないよと言う他なく、できる限り平然を装うしかない。
何より、一番厄介なのはこの世界のシステムだ。
何かがおかしい。それに気づいてから気が気でなくなってきた。
私はまだ7歳。分岐ルートどころかまだまだ序盤の共通ルートのはずだ。共通ルートはどうやったって同じ手順で進んでいくはず。
……あれ?でも、こんなに幼いシーンから、物語は始まってたっけ?
……私の記憶が抜けてるだけ?
その不安を助長するように私の知らない日々がどんどん加速していく。いつまで経っても終わりが見えない日常。毎日毎日24時間で進む時間軸。これじゃ大人になるまで体感時間が長すぎる。それどころか第2の人生歩ませる気か?さすがにこんな幼女の段階で恋愛に持ち込むことある?そんなマニアックなゲームだった??
1人悶々と己の記憶と格闘するも答えはでず。
ただ、この世界へ疑いと大きな不安を抱いて過ごすしかなかった。
──それから、すでに半年が経つ。
ついにワンシーズン越えてしまったなぁ…。
ここまで大したイベントが発生することはなく、毎日毎日同じような日常が過ぎ去っていくだけで、誰とどうこうとか全く変容がなかった。なんなら、主人公どころかモブのような扱いで、攻略キャラよりも確実に朔の姉御や鈴懸さんとの絡みの方が圧倒的に多い。攻略キャラたちもキャラたちで普通に仕事に励んでは客をとり、信号機組も何も支障はないと言った顔で過ごして行く。
こんなんで、ホントに帰れるのか、私。
帰ったら、玉手箱あけた浦島太郎のように老けきってる気さえしたきた。
「なあ暁月、お前も一緒にどうだ?」
「え?」
いい天気だなぁと。
空き部屋で天日干ししていた布団のシーツを畳んでいると、ひょっこり蘇芳兄さんが部屋の外から顔を出してた。隣にはちびっ子3人組も一緒だ。やばいぼーっとしてた。ごめんなさい聞き取れなくてと手を合わせて頭を下げれば、ニカッと笑って近づいてくる。
「和歌の勉強、気晴らしに暁月も来い!」
「今日の先生、蘇芳兄さんだから楽だよ、暁月」
「…白蘭、本人の前で楽とか言うな」
「大丈夫だよ、鈴懸さんにも言ってあるから。僕暁月と一緒にお勉強したいな…、だめ?」
「うっ…雛菊がそう言うなら…」
おおおお美少女もとい美少年の首こてんはきょうきだ!心臓をえぐる!!
とりあえず今取り込んだ分の布団を畳んで片付けるところまで待ってもらい、蘇芳兄さんの部屋に集合することになった。
ん??もしかしてこれ、ちょっとしたイベントが発生したのでは…!?
心のモヤに細くとも光がさしたようで、久しぶりにはやる気持ちで部屋に向かった。
「暁月!だから廊下を走るなって言ってるだろ!」
「…すみません薔薇兄さん」
相変わらず、彼の口うるささは健在だ。真面目め。