~解決編~
その日の夜。創作活動がいよいよ大詰めになり、シングルの表題曲「ありがとう」やカップリング曲である「東京パワーモード」「優越感」「サマーソング」を完成させて、あとは編曲作業に移ったところだった。表題曲の「ありがとう」の編曲作業が終われば、あとはレコーディングである。
自分は予想時間より大幅に上回った。本来は1週間の予定だったが、優美や自分が以外にも簡単に創作活動を進めたからである。一番のファインプレーは優美が前日にカップリング曲全部の歌詞を作ってきてくれたことだ。これが一番のポイントだ。自分は全員に
「よし。このままだったら、明日中には終わりそうだな」
するとベース担当の野口が
「このままレコーディング全部終わらせようぜ」
「それは出来ない。一度休まないとレコーディングに響くと、全てが水の泡だからな」
いつもはこんなこと言ったこともない。普段は寝ずに創作活動をしてレコーディングをやっていたのだが。今回は前述でも言った通り、デビュー10周年と記念すべき100枚目シングルなため、あまりふざけたことは出来なかった。今回だって「ありがとう」は完璧なロックバラード。他のも少しアレンジを加えてのロックやポップスなどだ。いつもふざけて作っている俺たちにとっては、少し珍しいことだ。
すると野口も納得した表情になり
「じゃあ。俺少し休むわ」
すると同様に永山も休むと言い、仮眠室に向かっていく。自分は優美に
「優美はどうする?少し休むか?」
優しく言うと、優美は首を横に振る。彼女は少し不眠症のところもあり、何かに没頭すると寝ることも惜しむほど頑張り屋さんである。自分はそんな優美が一番心配だったが、優しく
「分かった。少し編曲作業するか」
優美が首を縦に振る。そのまま編曲作業に行こうとしたとき
「北川さん」
と女性の声がした。聞き覚えがある声だ。そう思って振り返ると、そこには岡部の姿があった。こんな時間に何の用だ。少し怒りながらも
「今度はなんですか」
優美も少し不安げそうに自分を見る。自分は優美に大丈夫だけを伝えてから、岡部を見ていると
「実は、事件の真相がわかりましたのでそのご報告を。もうこれで最後にしますので」
確かにこの刑事が言うことは半分信頼できる。先ほどだって最後の質問と言い、その後にそのまま帰っていった。つまりもうこのしつこい女刑事と会うことはない。そう思い少し心の中で喜んでいた。そのまま
「分かりました。では手短にお願いしますよ」
「はい。まず、単刀直入に言います。北川雄太さん、あなた武田さんを殺害しましたね」
突然何を言い出すんだ。少し驚いてしまい、目を見開いてしまった。隣の優美は少し驚いた表情をしてるし、もうなんだか心の中はぐちゃぐちゃだった。そう思い少しキレながら
「な、何を言い出すんですかあんたは」
「あなたは、武田さんにあることをされては困る。そう思い、計画を実行に移した」
「ふざけるな!証拠はあるのか。証拠は」
完全にキレながら言った。もう言い返すことが無かったため、そういうしかなかったのだ。
すると岡部は持ってきた鞄から、写真ファイルを出し写真を一枚取り出した。そして自分に見せてくる。それはホワイトボードに、昨日のFINALライブセットリストの紙が貼ってある写真だった。これは別に不自然な事でない。実はいつもセットリストを組む時に、ホワイトボードに曲名が描いた紙を貼っていくことをしているのだ。これは他のアーティストもやっていることだ。
すると岡部が
「この写真は、私がただ一枚記念と言うことで、スタッフさんにお願いして、特別に許可を頂き撮りました。でもこれがまさか重要な証拠になるとは」
「はい?これの何が証拠なんですか」
一体意味が分からなかった。この写真のどこを見ても不自然な点は見つからない。そう思っていると岡部が
「実はそのセットリスト、曲順が一部分だけ変わってるんです」
自分は黙っているしかなかった。岡部が続けて
「その一番最後の曲である「ファーストダイヤモンド」はライブバージョンでなく、実際に演奏されたのはアルバムバージョンだったんです。ライブとアルバムの違いはただ一つだけ、ライブは楽器演奏で幕を閉じる。しかしアルバムバージョンはあなたが最後の「人生のファーストダイヤモンド」と言って幕を閉じます」
自分は沈黙を貫いていた。わざとではなく動揺だからである。あれを気づかれたらもう観念するかしかない。そう思い、言うなと心の中で念じていた。岡部は続けて
「何故そうしたか、それはただ一つ、ギターがポイントです。あなたはライブバージョンではいつも、その曲だけ使用している愛用のギターを使います。しかしあなたはFINALライブで演奏した時、ギターは使わなかった。ギターを使わなくても演奏できるアレンジにしているからです。それは何故か、武田さんを殺したときに血痕が飛び、ギターに付着してしまったから。だからギターは処分してあえてそれを使わないアレンジをした。さすが作曲者です。あなたが捨てたと思われるギターは既に回収済みです。もし私がこの存在に気付かなかったら、恐らく証拠は燃やされていたでしょう」
もう負けた。ギターを回収されてしまってはもう終わりだ。そう思いつい笑みがこぼれてしまった。隣では驚いた表情の優美が自分を見ていた。少し涙目になりながらも。
自分はため息をつきながら
「そうだよ。俺が武田を殺したときに、血がギターに付いた。それを捨てたよ。あんたが気づかなければ、ばれずに済んだのに」
すると岡部が少し表情を暗くして
「すべては優美さんのためですか」
「え?」
「実は木戸さんから聞いた情報ですが、武田さんは優美さんに好意を持っていた。でもあなたは不祥事ばかり起こしていた武田さんに、大事な妹を渡すわけにはいかなかった。だから殺すしかなかったんですよね」
少し同情の言葉を言われたため、少し楽にした表情になり
「そうですよ。全部あなたの言う通り。あいつは優美を狙っていたし、優美を思い通りにさせようとしていた。それが一番許せなかった。だから殺したんだ」
少し怒りの表情になったが、少し冷静になると。岡部が
「実は、セットリストの件は優美さんが教えてくれたのです」
「え?」
驚きながら優美を見る。岡部が少し優しめの声で
「優美さんは、「ファーストダイヤモンド」がライブバージョンではなく、アルバムバージョンであることをいち早く気づいていたんです。だから私にそれを調べてくれるように頼まれたのです。先ほど北川さんが仮眠している間に、こっそりと聞きました」
自分は優美の方を見ながら
「優美」
すると優美が少し泣いた表情で自分を見つめる。自分も涙が止まらくなりながら
「ごめんな」
と自分は岡部の方を向き
「いつから自分を疑ってたんですか」
「最初に会った時、後頭部を殴られたと聞いたと仰った」
「えぇ」
「でも、あの時殴られたと重役の人には伝えましたけど、何で殴られたかどこを殴られたかは言いませんでした。だから、あなたのその言動が不自然だなと思って」
何だそんなことか、つい言葉が滑ってしまったなと後悔の念を思いながら、つい笑みがまたこぼれてしまった。
するとスタジオに2人ほどの警察官が入ってきて、自分を連れて行こうとする。自分はおとなしく応じて行こうとすると
「お兄ちゃん」
驚きながら振り向くと、今まで喋れなかった優美が笑顔で
「ありがとう」
ようやく喋ってくれた優美に、申し訳なさと嬉しさで涙が止まらなくなりながら、ゆっくりと頷き
「岡部さん。妹をどうか守ってください」
すると岡部が笑顔で
「任せてください」
と自分は警察官にそのまま警察署に連れていかれたのであった。
~最終回終わり~