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リレー小説企画2

作者: 外川虎

リレー小説企画第二話。


3100字程度書いたんですが短すぎましたかね?

どれくらい書けばいいのかわからなかったのでキリのいいところで止めました。


あと、タイトル『優しい春は君と僕』なんてどうでしょうか。

安易すぎですか?w

「なんだよそれ」

 列からズレた机の上に腰かける友人が声を上げる。いきなり「登校中に知り合いだったらしい人に会った」なんて言ったのだから当然の反応と言える。

「で、清春はそいつのこと覚えてないの?」

「まあね」

 我ながらかなり失礼なことだと思う。相手は自分のことを覚えているのに、自分は相手のことを覚えていないのだから。

 どれだけ思い出そうとしてもその人物の記憶に辿り着けない。まるで彼女の記憶だけが抜け落ちている気がした。そしてなぜ僕は彼女のことを忘れているのか。それすらもわからなかった。

 彼女との会話を思い出す。つい先程のことなのに、遠い過去を思い出すような不思議な感覚があった。

『久しぶり、清春』

『君は誰?』

『……思い出してくれるまで秘密』

 たったそれだけの、会話と呼んでいいものかもわからない程のやり取り。僕が次の言葉を探していると彼女は先に行くと言って駆けて行き、なにも教えてもらえず彼女と別れる結果で終わった。

 人違いなのではとも思ったが、彼女は確かに僕の名前を呼んだ。彼女は僕を知っている。

 あれこれ考えているといつの間にか前の机に座っていたはずの友人は男子生徒のグループに混ざっていた。

 記憶の海を途方もなく彷徨っていた僕はメモ帳を開き、今わかっていることを書き込むことにした。


『彼女は僕を知っている』

『彼女はこの学校の生徒』

『僕は彼女のことだけを忘れている』


 この三つを書いて、僕の指は止まった。今書けることはこれしかない。無駄だとわかった僕はノートを机に入れ、どうしようもなく天井を仰いだ。

『久しぶり、清春』

 耳に残るこの言葉が頭の中を宛てもなく漂う。僕の名を呼ぶその声にどこか懐かしさを覚えたが、結局なにも思い出せずに時間だけが流れホームルームが始まった。

 「えー、今日から新しくクラスメイトになる転校生を紹介します。入って」

 先生が穏やかな口調で告げ、前のドアが開く。入ってきたのは女子生徒だった。艶やかな黒髪にパッチリした大きな瞳。

「あっ……」

「どうした清春」

 先生の訝しげな声で、僕は立ち上がりかけていることに気づいた。

「いや、あの、なんでもありません」

 恥ずかしさをなんとか誤魔化して座りなおす。

 教壇の横に立つ少女と目が合う。僕に対してほのかに微笑んだように見えて少しドキっとした。

「一目惚れでもしたか?」

 茶化すような口調で誰かが言い、どっと笑いが起こる。

「静かに」

 先生の声で教室は静まり、それを確認した少女は黒板にチョークをたてる。

櫻井優美(さくらいゆうみ)です。よろしくおねがいします!」

 活気の溢れる声で自己紹介をして、先生に指示された席に着く。僕より前の席でよかったと謎の安堵感に包まれた。

 彼女の姿を見ても、声や名前を聞いても、記憶は蘇らない。僕が知らないうちに、僕の身に何かが起きたのではないかという恐怖が芽生えたが結局それも憶えていないので考えるのをやめた。

 その後、始業式が行われた。最初は耐えていたけど長々としたお偉いさんの話は良い子守唄になった。僕は一時間程いた微睡の世界から戻り、意識が曖昧なまま校歌を歌って式は幕を閉じた。

 教室に戻り先生からプリントを配布され、今後の日程など諸連絡を聞きいて解散となったが、僕たちだけは教室に残っていた。

「君は誰?」

 今朝と同じ言葉が静かな教室に響く。

「櫻井優美だよ」

 屈託のない笑顔で答える彼女。でも僕が訊きたいことはそれじゃない。

「そうじゃなくて、君と僕はどういう関係なの?」

「朝言ったでしょ。思い出してくれるまで秘密って」

 僕の心を見透かしているような目で微笑んでいた。

 あくまで僕の憶測だけど、彼女は僕が記憶を失くしていることを含めて全部知っているんじゃないのか。久しぶりに会った人が自分のことを憶えていなかったら多少は焦ったり誰なのか説明したりするだろう。少なくとも僕はするはずだ。

 そして彼女は思い出すまで秘密と言ったが、思い出したのなら秘密もなにもない。思い出した上で秘密があるということなんだろうか。考えれば考えるほどわからなくなってくる。

「あのさ――」

「ねえ、今から遊びに行こうよ! どうせ暇でしょ」

 言葉を潰され少し腹が立ったが愛嬌のいい笑みを見たら僕の怒りはどこかへ消えてしまった。

 遊びに行く、か。彼女の言う通り帰っても小説を読むくらいしかすることはないし、一緒にいる時間が増えればなにか思い出せるかも。

「いいよ」

「それはどっちのいい?」

「承諾のいい。行くよ」

 そんなに拒絶感が出ていたんだろうか。それとも彼女がただ理解できなかっただけなのか。きっと後者だろう。

「じゃあ早く行こ!」

 引きずられるように手を引かれ、僕らは学校を後にした。

 今日の学校は半日で終り、弁当は持ってきていなかったから駅前のファミレスで軽く食事をしてから目的地へ向かった。

 やってきたのは近場のゲームセンターだった。

「僕うるさいとこ苦手なんだけど」

 入り口から微かに漏れ出す音が店内の騒がしさを物語っている。

「え、入んないの?」

「……承諾したからには入るよ」

 ここまで来て帰ると言うんじゃ格好がつかない。僕は大きく息を吸う。

 店に入るとさっきまでの静けさは消え去り、様々な音が入り混じった騒音が僕の脳を震わせた。相変わらずうるさい。

「なにやる?」

 耳を塞ぎたくなるような音に耐えながら僕は答える。

「なんでもいいよ」

 彼女が指さしたのは太鼓型の音楽ゲームだった。

 お互いに百円づつ入れてゲームを始めた。幸いなことに、流行りの音楽をあまり聞かない僕でも知っている曲がいくつかあったのでそこから選んだ。

 彼女は難易度むずかしいを選ぶ。このゲームのむずかしいはそんなに難しくないとさっき聞いたので、僕もむずかしいにした。

 結論から言うと難しかった。彼女は慣れた手つきでプレイしていたが、あまりやらない僕にとってはかなり難しいものだった。

 やはりむずかしいは難しいんだな、と哲学的なことを考え始めたところで彼女が口を開いた。

「次行こう!」

 そのあとはゾンビを撃ったり、カーレースをしながら甲羅やバナナの皮を投げ合ったりした。

 僕はほとんどのもので勝てなかった。まあゲームに疎い僕にしてみれば当然の結果だ。

 記憶が無い僕からすると彼女はほぼ初対面なのに、嫌な緊張感はなく友達と遊んでいる時のように素直に楽しめていた。

 あっという間に時間は流れ、気がつくと窓から見える空は黄昏ていた。

「そろそろ帰らないと」

「えー、もうそんな時間? じゃあ最後にあれやろうよ」

 彼女に手を引かれ四角い機械の中に入る。いわゆるプリクラというやつだ。

 お金は彼女が出してくれた。しかし、写真を撮るだけで四百円も取るのはどうなんだ。僕からすればわざわざお金を出してまで写真を撮ろうだなんて思わない。撮ってもせいぜい証明写真くらいだろう。

 そんな僕を気にも留めず彼女は画面を操作しフレームやらなんやらを選択していく。

「ほらポーズとって」

「え、え、ちょ、近すぎじゃない?」

 カメラの広角が狭いのか、触れる距離まで近づかないと画面に入りきらない。彼女は指定されたポーズを取る一方で僕は戸惑って変な体勢のままシャッターは切られた。

 隣に移動して写真にデコレーションをし、出来上がった写真は酷いものだった。

「あはははっ! いーじゃん。これくらいのほうが楽しいよ」

 満面の笑みで高く笑う。彼女は備え付けのハサミで二つに切って片方を差し出した。

 それを受け取った僕は裏返して定期入れに仕舞った。

「それじゃあ、帰ろっか」

 喜びを頬に浮かべた彼女と並んで黄昏の下を歩いた。

リレー小説企画第三話、更新されました。


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