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ポンド  作者: 新庄知慧
9/88

9 嘔吐

日本刀、ショットガン、…。


彼としては、日本刀を振り回したり、ジョットガンをぶっ放すという衝動、そうした心情については、ひどく理解できた。


自分も、通常の条件反射が形を変えたなら、似たような事を起こすだろう。


アルコールに痺れた頭の中で、彼は日本刀とショットガンと どちらを選ぶか考えてみた。


刀の方が破壊活動をするにあたり、体を動かして、その凶器を振り回したりする分だけ一生懸命な感じがしていい。


でも、ショットガン…こいつは、弾丸が飛び出すにあたり、火薬が爆発する。爆音、耳をつんざく爆音があった方が破壊に迫力が増すというものだ。


やっぱり、ショットガンだ。散弾銃。轟音が耳をつんざき、弾丸は砕け散って、あたり一面、一瞬のうちに破壊と殺戮と恐怖だらけになる。俺だっていつか、世界のすべてをショットガンでこなごなにぶっ飛ばすことが出来るかもしれない。


「誰かまた唄ったら?」


ショットガンの思いが砕け散った。


反射的に、それじゃあ、と、日本の心、演歌を唄いますと宣言した。歌集のページをめくり、どれにしようかとさがす様子をするが、実はどれもこれも彼にとっては同じ歌だった。


例えば、イギリス人が日本の民謡を、あるいは日本人がアステカの民族音楽を聴いても、どれもこれも同じ歌に聞こえるということと同様、いずれのページにも、彼にしてみれば同じ歌が並んでいた。


それでも、「石川さそり」の「津軽監禁つがるかんきん 鬱景色うつげしき」とかいう歌を選んで、がなりたてて唄った。


無人島で夜空に向かい、短波ラジオの雑音をまねて声を張り上げているという具合であった。間奏中にウイスキーをあおり、歌の終わりには激しく体を揺すって、ど演歌を絞殺するかのようにして唄い終った。


吐き気がしてきた。酒のせいだ。酒のせいで吐き気をもよおすなどということは、学生時代以来のことだ。


トイレに駆け込み、喉へ手を突っ込んで、むかつきの原因をすべて噴出させようとした。


ビヤホールで食べた焼き鳥の溶解しかかったのと、黄色いビールと胃液の混和液にキャベツの千切りがいっしょくたになって、しゃっくりのリズムにのって思い切り吐瀉されてきた。


ついでに涙も出てきた。


トイレの扉には、亜麻色の髪をした12歳ぐらいの外人裸体少女の写真が貼られていた。一区切りしてトイレを出ようとしてその写真が目に入り、また涙が出た。少女は森の中の池で水浴びしていた。


わけのない涙がまたも流れでた。


この写真の少女、こんな裸で水浴びしていたら、きっとお腹が冷えて、小水の回数が多くなってしまうだろう。もうすでに、この池の中に小水をまき散らしているのかもしれない。


そんな思いにとらわれ、再び嘔吐感に苛まれて、振り向き、便器に顔をふせてゲロゲロ吐いた。今度は胃袋からではなく頭の中から、詰まり物が吐き出されたように思った。


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