86 パレードが始まる
・・・・・まだ死ぬことはないよ、あんた。
あ。妖怪の声。
・・・・そうよ、私たちを呼んどいて、それはないよ。
今度は金色銀色目の女の声だ。そういえば、あなたたち、やっぱり沈んじゃったのですか。
・・・・・人なんて、生きてもたかだか100年。本当にあっという間なんです。その間にも辛いことばかりでしょう。だから一度死なないとならん。
死んだら終わりじゃないですか。今の僕みたいに。
・・・・・・そうじゃないと思ってるから、あなた私たちを呼んだんでしょう?
僕はあなたたちを呼んだんでしょうか?
・・・・・・そうです。一度死ぬために。そしてこの世に生まれるとは何なのかを知るために。私やこの女や、子女を呼んだのです。私たちはあなた自身です。
あなたたちが、僕自身?
・・・・妖怪です。
・・・・・・・・・・・・・
池の上では、灯籠たちの光が、激しく輝き始めた。一休みした婆さんたちの、お経のコーラスが再び始まった。それはお経というのとは少し違うような、生命のシンフォニーとでもいうような、よく分からない音楽に変わっていった。
「さあ、始まるぞ!」
あの病院の廃屋には、大群集が集結していた。そしてそれらが、生命の交響曲にのって、行進を始めた。
行進にあわせて、池の灯籠たちは美しくリズミカルに反応し、色々な光を発し、音をたてた。
行進する大行列には、課長が、人参が、蝦蟇が、若侍が、絶世の美女が参加して先導している。
大群集に近寄ってよく見れば、それは紛れも無い、妖怪たちのパレードだった。
夏の盆の夜。行止まりの池を囲み、妖怪たちの祭りが始まったのだった。




