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ポンド  作者: 新庄知慧
85/88

85 善良で、有意義で、真実

「妖怪どのは、ご無事で、おたっしゃか・・・?」


人影たちの中から 忽然と若侍が現れ、課長に近寄り、心配そうに尋ねた。課長が答える前に、ななめ前で池を見ながら佇んでいた絶世の美女が答えた。


「うちの子もいっしょやから。心配せんと」


「さようか・・・」


若侍は、その絶世の美女の側に行き、肩を抱いた。


「そこもとにも、本当にすまぬことをしたと、その苦しみ、ぞんじておる」


「・・・この世は夢やさかい。うちかて知ってますて。だからやろ?」


「…」


「ほら、始まるよ!」


絶世の美女は池を指さした。


池の無数の灯籠たちが、再び、明るく、輝き出した。





・・・・・・・・・・



この、力強い、嬉しい気持ちは、いったい何だろう?善良で、有意義で、真実な・・・


彼は沈みゆく鐘のなかで、自分の真っ赤な血の香りに包まれて思った。


利己主義。人参が言ってた。そうだ僕は利己主義の、人間世界のわがまま脱落者だった。


そうして行止まりを幻想して、今こうして、行止まりの池の中に沈もうとしている。そして、いろんな苦しみを味わって、そうして死のうとしている。


僕という存在は、一体何だったのか。ただの傲慢だったじゃないか。だから行止まりだったんだ。


なにを辛いと感じていたんだ。死んでみれば、すべてわかることだったじゃないか。


・・・そうよ。人はみな、一度死ななければいけません。そこからすべてが、初めて始まるの。


子女の声?


 ・・・あたしはあなたに教わった。あなたは立派な反面教師。この世は素晴らしい。私はかならずこの世に生まれてくるからね。そのときにはきっと、また、会おうね。


 僕が君に何を教えた?そんなはずはないよ。ただの阿呆の見本だっただけだ。


 ・・・だからあなたは立派な反面教師。そして、あなたは、死のうとし、そして乞食にもなろうとし、人は一度死ななければいけません、そしてすべてが始まるって、自分も知らないあいだに、教えたの?

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