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ポンド  作者: 新庄知慧
79/88

79 銃が火を噴く。悲鳴があがる

ちょっと待て、それ、ショットガン!?


「本物です」と、妖怪が答えて言う。


彼は背筋が凍りついた。妖怪は彼に問いかけた。


「そのポリバケツは何だ?!」


「こ、これは。ドラム缶の代用品です」


妖怪は鋭く問う。


「ドラム缶が、なぜ必要なんだ」


「つまり、その…」


「自殺の道具だってさ」金色銀色目の女が言った。


「そのバケツに入って、中で腹切りして池の底に沈むつもりだったんだって。ほら、そこの船底に刀もある。でも沈むための重りはどうするの」


「はあ」


彼は口ごもった。妖怪が言う。


「それでは不完全だ。重りは必要だ。捜さなければだめなのに。捜せなかったのか。第一、あなた、腹切りなんてできるの?」


「もう、ほっといて下さい。それより、あなたたち、それで僕を撃つつもりなんでしょ、なら、早くやって。」


売り言葉に買い言葉で、彼はついこんなことを言ってしまった。しかしそれには金色銀色目の女の即答があった。


「撃つわよ!」


え?そんな簡単に応じるなんて…


ショットガンが火を噴いた。


続けて何発も何発も。


お経の耳鳴りをかき消すようにして、銃声が響きわたった。


続いてわき起る悲鳴。


彼の背後の、水生植物群落の密集して形成された浮島の中から悲鳴があがった。


浮島の黒い草陰から、男が躍り出た。


手に日本刀を持った、痩せぎすの着物姿。


「何で、また、わてが撃たれな、あかんねん!」


板塀の前で彼を殺そうとしたあの男だった。


きりきり舞いしながら現れ、すぐ闇に消えた。


そしてまた悲鳴。


痛い、とか、ギャーとかいう悲鳴が続いている。


どうも撃たれたのは、この日本刀男だけではないらしい。


続けてショットガンが発射された。何度も、断続的に。そして悲鳴の数も増えた。


「も、もうやめようや。」


と言いながら、浮島の中から、また人影が。額の汗をハンカチでぬぐいながら、中年の背広姿の男が。


続いて蟇蛙がまがえるのような顔をした背広姿、人参のような顔をしたのや、数名の背広姿の人間が浮島の草の中から現れた。

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