79 銃が火を噴く。悲鳴があがる
ちょっと待て、それ、ショットガン!?
「本物です」と、妖怪が答えて言う。
彼は背筋が凍りついた。妖怪は彼に問いかけた。
「そのポリバケツは何だ?!」
「こ、これは。ドラム缶の代用品です」
妖怪は鋭く問う。
「ドラム缶が、なぜ必要なんだ」
「つまり、その…」
「自殺の道具だってさ」金色銀色目の女が言った。
「そのバケツに入って、中で腹切りして池の底に沈むつもりだったんだって。ほら、そこの船底に刀もある。でも沈むための重りはどうするの」
「はあ」
彼は口ごもった。妖怪が言う。
「それでは不完全だ。重りは必要だ。捜さなければだめなのに。捜せなかったのか。第一、あなた、腹切りなんてできるの?」
「もう、ほっといて下さい。それより、あなたたち、それで僕を撃つつもりなんでしょ、なら、早くやって。」
売り言葉に買い言葉で、彼はついこんなことを言ってしまった。しかしそれには金色銀色目の女の即答があった。
「撃つわよ!」
え?そんな簡単に応じるなんて…
ショットガンが火を噴いた。
続けて何発も何発も。
お経の耳鳴りをかき消すようにして、銃声が響きわたった。
続いてわき起る悲鳴。
彼の背後の、水生植物群落の密集して形成された浮島の中から悲鳴があがった。
浮島の黒い草陰から、男が躍り出た。
手に日本刀を持った、痩せぎすの着物姿。
「何で、また、わてが撃たれな、あかんねん!」
板塀の前で彼を殺そうとしたあの男だった。
きりきり舞いしながら現れ、すぐ闇に消えた。
そしてまた悲鳴。
痛い、とか、ギャーとかいう悲鳴が続いている。
どうも撃たれたのは、この日本刀男だけではないらしい。
続けてショットガンが発射された。何度も、断続的に。そして悲鳴の数も増えた。
「も、もうやめようや。」
と言いながら、浮島の中から、また人影が。額の汗をハンカチでぬぐいながら、中年の背広姿の男が。
続いて蟇蛙のような顔をした背広姿、人参のような顔をしたのや、数名の背広姿の人間が浮島の草の中から現れた。




