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ポンド  作者: 新庄知慧
75/88

75 いよいよ、そうか・・・

そしてそしてそして・・・・・・


池のほとり。行止まりの池のほとりだ。


雑草の生えた地面に、彼は子女と座っていた。すぐ後ろに、巨大なポリバケツが座っている。夕暮れに近かった。


死のうしてだめで、乞食にもなれない。そしてまた行止まりの池に来た。彼は目の前にある池を眺め、この池の眺めだけがたよりだった。


彼はここにいて、こうして、行止まりを見ている。この池が行止まりに見えるのは、彼の他にはいないだろう。


ひっそりとした所に逃げ込んでしまいたいという逃避心を満たしてくれるからだろうか、池を眺めていると心安まる。


一体自分は何をしてきたのだろう。


何をしに行くのだろう。


今ここにこうしているのは何なのだろう。


お先には何も見えない。


絶望と屈託とに塗り尽くされた後に、とにかく何もないのだった。行止まりの池があるだけ。


ここに、こうして安らかにしているだけがいいのか。


しかし、とにかく、何もないのだ。何もないところを、どうやって、どうしていくというのだろう。切実なようでいて、苦しいようでいて、しかしそれら全てをさえ、ないがしろにした気持。


わからないのだ。何もわからない。何もみえてこないし、何も思い出せない。だのに自分は呼吸している。死んでしまっても同じことなのに。


彼は振り返り、巨大なポリバケツを仰ぎ見た。


何のドラマも始まらなかったし、何も救われなかった、何も理解できなかった。僕はどうして、サラリーマンとして人なみの生活を受け入れて、すらすらと生きていけなかったんだろう。僕はこの世が、面白いなどとはとても思えない。


何かがやってこないか?いやもう何もやってこない。待とうとも思わない。どんな孤独でもかまわない。孤独?ああ、また理屈みたいな考えにとらわれている。いやだ、いやだ、いやだ。私は貝になりたいとか言いますね。


「池を見ていると、心が安まるって?」


彼には、それがまたとっても嘘に思える。息をつなげると言った方が…息をつなげるとはどういうことだ?




横にいる子女をみた。



この子もここにいて、しかし、ずっといなかったのではないか。子女なんて存在は、もともとなかったのだ。


池を見る。そうして彼は一人だ。ひとりだ。たとえばどんな優しい恋人が見つかったとしても、もう駄目なんじゃないか。死ぬこともやろうとは思わない。何んにも知らない。


ある日ぷっつりと、消えてしまえたら、どんなにいいだろう。ある晩眠り、そのまま、ぷっつりと、この面倒くさい心と、かったるい身体が、消えてしまったら、どんなにかいいだろう。心も体も、池の霧になって、空に拡散して消えてしまえたら、どんなにいいだろう。霧になって、この世とやらに、永遠に、おさらばできたら。


○ ○ ○ ○ ○ ○


おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。おしまいだ。


霧になって消えてしまいたい。。。

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