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ポンド  作者: 新庄知慧
69/88

69 乞食もつらいよ


川に沿って続く通りには、しかし、黄昏近くなって人の数も増え始めた。


上のほうの雑踏の音が、段々うるさくなっていく。上のほうから、誰かの声が呼びかけたり、馬鹿にして笑ったりしている。


何かが上の通りのほうから飛んできた。


彼の近くの砂利まじりの草叢にぼそっと落ちた。


次に、彼の後頭部に激痛が走った。気を失いそうになる。


何かが飛んできて、彼の頭に当たったのだ。


彼は立ち上がった。上を見ると、太陽の逆光に、黒い人影。また飛んでくるもの。それは石だった。


その飛ぶ石をよけると、人影は消えた。


笑い声が聞こえた。


太陽は、やっと沈もうとしている。


彼の後頭部に再び激痛が走った。頭をかかえて、膝をつき呻き声をあげた。ぽろぽろ涙がこぼれた。


太陽が、もう少しで沈む。彼は割れそうな頭をかかえたまま、再び歩き出した。



再び妖怪の店の前。


黄昏どき。赤黒い夕陽の光と、夜の青い闇とが混ざり始めている。


しかし妖怪の店は、相変わらず人の気配がない。彼は裏手の小さなドアの前に尻をついて座り込み、子女と向き合った。


もう薄暗くて子女の表情は見えない。彼女と語らう気力も何もなかった。


はやく妖怪は来ないかという気だけが意識をかすめた。しかし、それも、あやふやなものだった。


妖怪が来たからといって、何を語るのかも、もう、思いうかばないのである。


乞食、乞食、と、彼は呟いた。



とっぷりと日が暮れた。


通りの方で、客引きたちの声がする。彼は身動きする気など全然しなかった。軽くうたた寝をした。


さらに1時間、いや2時間かもしれない。誰もやってこない。


今日は休みなのだろうか。それともこの店はつぶれたか。彼は子女を抱いて、立ち上がり歩き出す。


ぎらぎらしたネオンの光と、人のざわめく音がするのとは反対の方向へ、暗い裏路地の方へと歩いて行った。


歩くと振動が頭に伝わり、後頭部に時々いやな痛みを覚えた。



不意に腕をつかまれた。


腕をねじあげられ、モルタルの壁にたたきつけられた。そしてむなぐらを掴んで引き摺り起こされた。


冷たく光るものを目の前につきつけられ、胸ポケットに手を突っ込まれた。


彼は驚いたが、また後頭部を激しい痛みが襲い、抵抗もできなければ、声を上げることすらもできなかった。


ただ、鋭い嘔吐感を感じ、それに耐えて身を二つに折り曲げただけだ。


彼はそこに倒れた。そして意識を失った。彼を襲った何者かは走り去った。


……・

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