表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンド  作者: 新庄知慧
68/88

68 ミスター乞食をさがして

乞食になるのだ!



しかし乞食とは何なのか。



分からないのであるが、彼は学生時代も終ろうとしていた頃、就職を控えて、自分の適した職業は何なのか真剣に考えたことがある。


そしてその結論は、乞食だった。だから乞食というものについて、何らかのイメージが彼なりにはあったのだ。


今、彼は失業者だ。職が無い者は、すでに乞食ということでよいのだろうか。違うか。


職に就くことができない、がんばってもだめな人であって、汚い恰好をして、道端にゴザなんか敷いて座り、茶碗を置いて、お恵みの銭が投げ込まれるのを待って土下座して頭を下げる。そういう人。


しかし、彼は本当の乞食というものを見たのか自信がない。


それらしい人は見たが。あの方たち、正規のお乞食だったのかしら・・・・?


彼はふと、あの妖怪のことを思い出した。河原乞食でもあると自称していた。本当かね?あの男のところへ行ってみようか。


彼は街を汗だくになりながら乞食に思いをはせながら歩いた。



乞食、乞食、わたしは乞食。



しかし暑い。


耐えられなくなって、冷房のきいたバスに乗った。乞食はこんなことしていいのだろうか。


あの、妖怪とともに佇んだ橋の近くの停留所に着いた。


今日も街には多くの人々が歩いていた。彼は妖怪の店、あのピンサロを捜して歩いた。


繁華街から一本通りをそれた裏通り。裏通りに面した風俗店の数々は、昼の光の中で白けた姿を晒していた。どの店も当然のことながら、まだシャッターをおろしている。


少々てこずったが、彼は妖怪の店を発見した。


真っ黒なシャッターが閉ざされていて、裏手へまわってみると、小さなドアがある。開けようとしたが、予想した通り鍵がかかっていた。


しかし、ここは本当に風俗営業をしているんだろうか。看板も表札も何もない。


前回案内されたときも、ただの空き家みたいにしか見えなかった。夜になると、途端に変身するのか。


ここに待っていれば、やがてあの妖怪がやってくるのだろう。


彼はその店の場所を確認できただけでも収穫と考えて、その場を去った。


河原のほとりで佇んだ。


もう午後4時。日は西に傾いて、狂った熱気の1日の、仕上げにかかろうとしているかのような酷い太陽。


その太陽の下を、奇怪な忍耐にとりつかれたかのように、人々が飽かず歩いている。


橋の方へ歩いていき、欄干に頬杖をついて、妖怪と眺めたようにして川を見た。河原へと降りる階段を下って、水のほとりへ行った。


川の流れに沿って、川辺の砂利の上を彼も流れるように歩いた。


乞食、乞食。


彼はぶつぶつ呟き、そうやって1時間も歩いただろうか。


暑さのせいで頭はとろけてしまい、身体は汗みずく。彼はその場に構わず座り込んだ。座ったまま、じいっとしていた。


彼はそこにそうして座ったまま、もう考えるのをやめた。彼は本格的にからっぽになってしまいたかった。自分を消したかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ