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ポンド  作者: 新庄知慧
66/88

66 その男、日本刀持ちて

日は容赦なく彼を射し続けている。


ふと顔を上げると、いつの間に現れたのか、正面から一人の男が彼の方に向かって歩いてくる。


陽炎のように、ゆらめく黒い人影。次第に姿形、顔形が明らかになってくる。どこかで見たような姿だ。


「あ!」


彼は思わず声を漏らした。向こうの男も彼に向かって、こう声を発した。


「妖怪!」


それはあの、留置場の隣の牢屋にいた男だった。続いて男は叫んだ。


「やはり俺のところへやって来たな!」


彼はこんな気違いの相手をするのは御免だった。横の路地へと逃げ込もうとした。


しかしこの青白い痩せた男は、すばやく彼の後を追いかけ、全速力で走ってくる。さっきから走り通しで疲労していた彼は、たちまちこの男に追いつかれた。


「待て!待たないと斬るぞ!」


走りながら振り返って見ると、男は腰に日本刀らしきものをさしている。彼はもう逃げるのをやめた。男の側に顔を向けて言った。


「やめて下さい。僕は妖怪なんかじゃない」


男はそれには答えず、腰の刀を引き抜いた。


日本刀は没収されたはずじゃあなかったのか。まるで本物の日本刀に見えるけれど、おもちゃだろうか。


「やめて下さい」


「貴様、何しに来たんだ」


「あなたのところに来たわけじゃない」


「嘘つけ」


「本当ですよ」


「俺は妖怪なんか呼んだ覚えはない」


「僕は妖怪じゃない」


「嘘つけ」


男は、日本刀を振りかぶって、彼に斬りつけようとした。彼は咄嗟に身をかわした。


男の刀は空を切り、地面にぶつかり、キイン、という重々しく鋭い音を発した。


地面にはざっくりと刀の切り傷が刻まれた。


男は体勢を立て直し、再び刀を構えた。


かなり重たそうな刀。これは本物の日本刀ではないか!?


男は刀を構えつつも、どこか腰がしっかりとしておらず、この重たい金属の武器の扱いに必ずしも熟達しているわけではないようだった。


「何するんだ、人殺し!気違い!やめてくれ、やめろ。なあ、頼むよ」


「では、もう金輪際、俺の前には現れないと誓うか!」


「誓う、誓う」


「俺はお前たちのことなんか、呼んではいないんだからな!」


「呼ばれてなんかいきませんよ!会いたくなんかないんだから!」



男は嫌悪に満ちた目で、彼を見ていた。

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