65 誰だい僕の真っ赤な血をなめるのは
「お花の薬を見てるんですよ」
「ああ、何のお花を作っていらっしゃるんですか。病気に効く薬でしょうか、それとも害虫」
「花が死にたがっておりまして」
彼はやや自暴自棄だった。
「私の葬式の花を捜してるんです」
店員は、石つぶてでも顔にぶつけられたような、驚いたような表情をし、そしていやそうな顔をした。
それっきり、口をきくこともできなくなり、彼が抱えていた小女の方を見て、気味悪そうにして店の奥へ立去った。
そのまま彼はしばらく小女とともに花屋のウインドウを見ていたが、店の奥から、今度は頑固親父という感じの腕っ節の強そうな男が出てきた。彼をぎょろりと睨みつけた。
彼はいやになり、その場を離れた。
・・・・・
小女とともに、てくてくと商店街を歩く。買い物客の数は比較的まばらであった。
金物屋が目に入った。巨大なポリバケツが店頭に置いてある。ドラム缶がだめなら、これでも…しかし、水に浮くんだろうな。
よっぽど重たいものを抱えて中に入らないとだめだな。考えながら、彼は店の中に足を踏み入れた。
出刃包丁、各種のナイフ、剪定ばさみ、アイスピック…金属製のものなら、なんでもありますよ、という感じで、色々なものが、雑多に置いてあった。
店員が、また寄ってきた。また女子アルバイトだ。
「お探しのものは?」
彼は本当に面倒くさくなった。
「刀です」
「刀?小刀ですか?」
「僕の首をかっ切る、刀です」
「・・・・・・・・・・・・・(;゜ロ゜)」
彼は店を飛び出た。
いよいよ頭が切れたか。店員に向かって、変なことばかり言ってるではないか。
店を出ると、3町くらい先にさっきの花屋と薬屋があって、店の前に数人の人だかりがこちらを見ている。
先ほどの花屋の親父、アルバイト、そして警官の姿が見える。
まずい。
挙動不審の、人形を抱えた男が、商店街の若い店員の娘をからかって歩いている。と、そういうことになってるのか。
彼は足早にそこを歩き去り、角を曲がると、走り出し、横丁をでたらめに曲がりながら、逃走した。
こんなに走ったのは久しぶりのことだ。
商店街を離れて、暫くいくと、黒い板塀が長く続く通りに出た。大きな屋敷の板塀のようだ。
まるで時代劇のセットを思わせる。ずっと向こうには、黒い門のようなものが見える。
彼ははあはあ息をつき、板塀に沿って、うつむき加減で、のろのろと歩き出した。




