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ポンド  作者: 新庄知慧
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64 パッと死ねるお薬は?

商店街で薬屋を捜す。


あった。大きなひよこのマークが目印の、全国的ドラッグストアである。


ここで、「毒薬下さい」なんて言っても、そんなもの、入手できっこないことは彼にも分かっている。


だから大学にふらりと立ち返って、研究室から砒素とか青酸カリといった毒物を盗み出すべきだという意見もあるだろうが、彼のようなのろまの人間が、そんなかっぱらいに成功するかどうか心もとない。第一、面倒くさい。


毒薬なんて、もっと手軽な日常生活の中から発見できるはずだ。彼はそう思ってここへ来たのだ。


どんな薬でも、大量に服用すれば毒になる。睡眠薬が典型的な例だ。殺虫剤なんかもいけるのかもしれない。


まあ、大学か高校の生物部の学生なり教師を装って、ホルマリンなんか購入するか。


薬屋の中を歩きながら彼は色々な商品を手にとっては考えていた。ドラム缶の中で服毒ということなら、一瞬で即死というのがいいんだけどな。


「お客さま、どこがお悪いんですか。何をお探しです?」


神経痛や肉体疲労に効くという栄養ドリンクが沢山並んだ棚の前で、店員に声をかけられた。清潔な感じのする若い女の子だった。


薬屋の店員というよりも、ファストフード店のアルバイトにしか見えない。


「薬を捜しているんです」


「これ、みんな薬ですよ。何のお薬?」


「ちょっと考えてるんです。どこも悪くないんです。悪いのは僕じゃなくて」


「ご家族」


「ええ、まあ」


彼はいい加減な返事をしながら、毒になりそうなものを物色していた。しかし、どうもいいものが見つからない。店員はまたしつこく聞いてくる。


「ご家族はどこがお悪いんでしょうか。ご相談にのりますよ」


マニュアル教育で、こう言うように躾られているのかもしれない。彼は面倒臭くなって言った。


「家族は死にたがってるんです。パッと死ねる薬って、ないですかね」


店員は怪訝そうな表情をして、彼を見た。


まずいことを言ってしまった。彼はその場にいられなくなり、店を出た。



・・・・



今度は花屋へ行ってみた。


害虫駆除の農薬を見た。どのくらいの効き目があるのか皆目見当がつかなかった。


農薬のパッケージは、色とりどりの美しい花が咲き乱れた写真で飾られており、死とは縁があまりないみたいだ。


花屋の前で佇んでいると、花屋の店員が近寄ってくる。また女子高校生アルバイトみたいな若い娘である。


「今日は。贈り物ですか。お誕生日祝いですか」


また、全自動機械の人形みたいな語り口で彼に聞いてくる・・・



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