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ポンド  作者: 新庄知慧
63/88

63 そや、わて死ぬわ

 ・・・・翌朝。


「そや、いっそ、死んだろ」


チュンチュン雀の鳴く声と、列車の走る音とで目が覚めた彼は、起き抜けにこう口にした。関西弁で言ってみたところが味噌である。


「そうするわ、あんさん」


彼は小女にもその決意を関西風に伝えた。


「わて、死ぬわ」


カーテンを開けてみると、部屋の中でまだ寝ていたのは彼だけで、他には誰もいなかった。


ちらかった寝床が2つ見えた。あとのベッドは奇麗なもので、やはり昨夜の宿泊客は3人だけだったのだ。まあ、そんなことはどうでもいい。


彼は宿を出た。


電車に飛び込むか。


彼はすぐ近くにあった駅に行った。最寄りの駅までの切符を買って、ホームへと行った。まだラッシュアワーが続いている。


ここで飛び込んだら…痛そうだ。内臓が破裂したりして死ぬんだろうか。


それに、大勢の人に迷惑もかかる。暑い夏に人身事故でダイヤが狂って、大勢の人が暑いホームに待たされる。


彼は電車には飛び込まずに電車に乗った。車窓を眺めつつ彼は考えた。


ではどうしよう。


首吊りか。


会社をクビになって首吊りだ。どこでやろう。もう独身寮も追い出されたし、どっかのホテルか旅館でか。


これも迷惑がかかる。どっか外でやろうか。誰にも見つからずにできるだろうか。しかしもっと、派手なのはないかな。


切腹とか。


究極的な痛さだろうな、あれは。あの若武者は凄かったな、あんな痛いことやっちゃって。


やはり服毒か。それが平和的か。


誰にも迷惑かけずに、消えるようにして亡くなるには…


火葬場か墓場に棺桶を持って行って、1時間後くらいに死ねる毒を飲んで、自分で棺桶に入って、内側から釘付けにして、勿論遺書は棺桶の表に張っておこう。


遺書は「これは自殺です。すみません。ご迷惑ですが、葬って下さい。火葬でも土葬でもいいです。お金はこの銀行口座からおろしてください。暗証番号は0817です」と書いて、キャッシュカードを添付だ。


しかし、墓場や火葬場に、棺桶を持ってゆくなんてできるかな。


やっぱり見つかってしまいそうだ。葬ってもらおうなんて無理か。


ドラム缶に重りを積んで入り、海か湖に沈んで、そこで、一発で死ねる毒を飲めばいい。そうだ、そうしよう。


色々考えながら彼は悩んでいた。


しかし、毒は?ドラム缶は?海の上までどうやって行くか?考えがまとまらなかった。


そのまま30分も電車に乗ってしまい、隣の街近くまで来てしまった。


通勤客もほとんどいなくなり、電車には、買い物姿の奥さんや、外回りの営業マンといった感じの男や、ご老人などが、まばらに乗っているだけだった。


よし、まず毒を捜そう。彼は次の駅で降りることにした。


その駅はわりと大きな商店街のある、わりと大きな駅だった。


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