表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンド  作者: 新庄知慧
58/88

58 それは誰?

「あら、阿村さんやないの」


見ると、そこにはまたもやあの枯尾花の森下婆が座っていた。


けけ、と半分笑ったような不気味な顔でこちらを見ていた。


瞬間、彼は横に座った子女のことに気がいって、まずい、と思ったが、後の祭りだった。


森下婆は遠慮会釈なく、立ち上がってずかずかこちらに近づいてくる。ああ、またも万事休すではないか。


「偶然やね。あら、その子また…」


「いあ、はあ、気にいらないらしくて、いや、親戚の子がですね、それで」


「返されたの。それで、また、なんでいっしょに連れて歩いてんの」


「それは、つまり…」


「この子も、段々元気になってきたんと違う?」


「はあ?」


森下婆は目を細めて、子女を見つめていた。優しげな眼差し。子女は見られてやや俯いたような気がする。


「あんた、この池に何しにきたん?」


「いい眺めだなあと思ってですね」


「釣り舟の持主んとこに謝りにきたんとちゃうの」


「あ、はあ、勿論、そうです。そのためです。その上、池の眺めが素晴らしいという、その」


「ほんまかいな」


「そうですよ。それより、森下さんこそ、どうしてここへ」


「そんなん、うちの勝手やないの」


「そうですか。そうですよ。うん、それじゃあ僕はこれで」


「まだ注文したお茶も来てへんやないの。あんた、うちのこと嫌うとるんやね」


「それはもとより、いや、とんでもない」


「あんた、気いつけた方がいいよ」


「へ?」


「会社のことな、やっぱりあかんかも知れん」


「何のことです」


「噂やけど。心の準備はしといた方が。えらい堅い固い会社やさかい。まあ、ええわ、さいならいうんやね」


彼は何のことか察しがついた。また会社のことを思い出して、いやな気分になった。


「あら。悪いこというてしもうたね。でも、噂やさかい。がんばればまた、何とかなるて。そやけど、その子、ほんま、お友達なんやねえ」


「もう、ほっといて下さいよ」


「怒ったの。すまないね。でも、阿村さん?」


「何ですか」


「あんた、その子のこと、分かってはる?ほんまに、分かってくれてはる?」


枯尾花は謎のような目つきになって、彼を一瞬見て、やがてまた子女と向き合った。


「?」


この森下婆が何を言っているのか、彼には分からなかった。


僕がこの子女のことを、どう分かっていようといまいと、この婆に何の関係があるというんだ。何だってそんなことを僕に聞く?大体、この婆は何者なんだ。


「この子のことを分かってるかって。どういうことですか。あなたはこの子の…いや、この人形の、一体…・」


彼は言いよどんだ。森下婆は顔を上げて、にっと笑った。老けた顔。しかし、どこかで見た顔が、その婆の顔に重ね合わされたような気がした。


こいつは一体、誰だ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ