表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンド  作者: 新庄知慧
55/88

55 世界の逸品ブルマンテン

「すこし、お待ち下さい。それより阿村さん」


「はい」


「あの、ちいさな子、元気?」


「ちいさな子?」


「あんたの、あのお人形さんやがな」


「あ、あれは人にあげましたよ。言ったじゃないですか。人にあげるものだって。親戚の女の子にあげました」


「ふうん。そうかいな」


「人形が、どうかしたんですか」


「警察の知らせと、くい違うとるわ、あんた」


「え?」


「日本人形を抱いた不審な若い男、おたくの社員、預かってるってね、連絡あったのよ。警察から」


「……!」


彼は冷や汗をかく思いだった。


「ちょっと待っててや。課長出すさかい」


課長に対して、ひら謝りに謝った。すぐに出社しますといった。課長の反応は、比較的穏やかなものであった。


まあ、若いしね、こういうこともあるか。しかし、わが社では珍しいけどね、こんなこと。でも、まあ、今日はゆっくり休みたまえ。年休にしとくから。ゆっくり、頭冷やしなさい。


いたわるような口調でもあり、妙に他人行儀な感じもする話し方。彼はその課長の言葉を聞きながら、身体中を滝のように汗が流れていくのを感じた。


電話を切って、彼はひどい疲れを感じた。とにかく冷房のきいたところで、課長の言うように、頭を冷やそうか。


なぜ、こんなことになってしまったのか。


彼は子女の方を見た。昨日のあれは、一体何だったんだろうねえ。子女に聞いてみた。


公衆電話ボックスを出て、歩いた。500メートルほどもあるいたところで、大きな看板が目をひいた。


「世界の逸品ブルマンテン」


ブルーマウンテンではない、このブルマンテンという言葉が気に入って、その看板を掲げた喫茶店に入った。


席に身を沈めて、煙草を吸った。子女と見つめ合った。


頭の中が、溶けたアイスクリームみたいにだらしなく流れ出してしまいそうだ。


しかし、昨日のあれは、一体、何だったんだろう。


恐ろしい体験でもあったし、でも、なんか貴重な、大切なことみたいでもある。


ああ、でももう考えるのはやめよう。暫くして、彼はその場で、うたた寝を始めた。子女が居眠りする彼をじっと見つめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ