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ポンド  作者: 新庄知慧
53/88

53 しっかりしてや

「しかしあんた、昨夜は本当に気違いやったで。一度、医者に診てもろうた方がいいで」


「はい」


「素面のときは、まるでおとなしいんやな」


「はい」


「まあ、初犯やし、どうするかは、また、おって、沙汰することになると思う」


「沙汰する?どういうことです」


「あんた、未成年やないんやし、そんなこと分かるやろ」


「はあ」


「これ、刑事事件やで」


「はあ」


「あんた、家族おらんの」


「一人ぐらしです。独身寮」


「ひとりもんか。もう、父さん母さんに迷惑かける歳やないで。しかし、乳離れしとらんのかなあ。これ、あんた、何やねん」


机の横にあった棚から、黒い布袋をひっつかみ、その中から小女を取り出した。


「あ、それは」


「あんたの妹かいな」


「それは、つまり、その」


「まあ、いいけど。でもね、あんた、気色悪いって言われるよ、嫁の来手もなくなるよ」


「はい」


それから幾つかの書類を書かされ、反省を求められ、何でもおとなしく従い、やっと警官の顔から彼に対する嫌悪感が遠のいていった。


「まあ、初犯やし。あの、あんたの隣の部屋にいた、気違いみたいにならんように気いつけてや」


「あの方、やっぱり、あの、日本刀の」


「うん、そや」


警官は、彼の反面教師になると思ったからか、あの痩せた男のことを語った。


ショットガンの傷を負った彼は、やがて退院し、家に戻ったが、また何かの妄想にとりつかれたらしく、ある晩、人を傷つけてしまった。


もう、日本刀は没収されていたので、木刀で殴りかかったのだという。その男は何かの幻影にとりつかれ、死の国へ誘われた。


死の国の方が優しいのだというようなことを幻影にさかんに言われたらしい。


それで、幻影を追って路地に飛び出て、通りすがりの罪もない人に、きえーっと襲いかかってしまった。被害者は全治三か月の重傷だという。


「すごいですねえ」


「感心してないで、あんた、しっかりしてや。なんか、あんた、腺病質な感じあるし」


「・・・はい」

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