52 取り調べ
「すみません。しかし、覚えてないいんです。
あ、そう、あの池で、若武者に会って、お姫さまみたいな美人に会って、
それから、そう、お化けに追いかけられて、泥棒、と怒鳴られて、ああ、そこまでは覚えてるんですが。
今、何時なんでしょうか。会社に連絡しないと」
「何ゆうとんねん、泥棒って怒鳴られたんやろ。とぼけくさって。まあ、ええわ、いちいちつきおうてられへん。
あんたを突き出した人も、まあ、あんまり事を荒立てるつもりはないようやし」
ぶつぶつ言いながら、警官は牢屋の鍵を開けた。
「そいつを放すのか!」
隣の牢屋の男がさけんだ。
「うるさい!おまえもいい加減で正気にもどったらどやねん。何が妖怪や。いつまでもそんなやと、またジョットガンぶちかまされるで」
ショットガン?彼は思い出した。蟇蛙の話を。
「あ。この方。カラオケ事件の方ですか。日本刀のひと」
「どうでもええやろ、そんなこと」
痩せた男がまた叫んだ。
「やめろ!貴様も妖怪か。また私のような犠牲者が増えることになる。悪いことは言わないから、そいつを斬り捨てろ!でなきゃ、閉じ込めておくんだ!」
「ああああ、全く」
と、警官は疲れきったという感じの溜息をついた。
「あんた、もうここでは面倒みきれんなあ。はやいとこ気違い病院に行ってもらわんと」
そう言いながら、「来い」と言って、彼を牢屋の外へ連れ出した。
廊下を歩き、階段を上って、取り調べ室らしきところへ連れて行かれた。机に向かい合って座り、警官が調書らしきものを取り出し、彼に訊問を始めた。
「酔ってたんやろ」
「は、はい」
いいえ、と言ったらまた叱られそうな気がした。早くここから出たかったので、なんでも、はい、はい、と言うことにした。
酔ったあげくに池に迷い込み、気が大きくなって舟に乗り、天然記念物の植物たちを荒らしまわった。暑気あたりで頭が少しおかしくなっており、そんな行為にでてしまい、しっちゃかめっちゃかだった。と、そんなことであったということにされた。
「夜のことやし、侵入禁止の看板も見えなかった。そやな?まあ、だからって許されるもんとちゃうけどな」
「はい・・・・」




