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ポンド  作者: 新庄知慧
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49 ホログラフ・カンバセーション

彼は水生植物たちの中をすすむ。


・・・ああ、美しい、花だ、植物だ、群落をかき分け、かき分けして、ますます、うっとりした。そう、そうして、幻想的な美の気分に浸った。浸ったのだった・・・


すると突然、植物の影から、「人の顔」が浮かび上がった。


「!!!」


恐怖。いや、戦慄。むしろ美の戦慄だった。


その顔は、幻灯とかホログラフスコープで映写された幻影かと思われる、実態のない幽霊映像で、しかし、美しいこと、この上なかったのだ。


その顔。その顔は、見覚えがあった。それはあの、切腹した少年・・・平君だった。


彼は何か喋った。


彼は心底驚愕したが、少年は彼に語ったのではないようだった。彼の後ろにいる誰かに語ったのだ。


彼の頭ごしに、誰かと話しだしたのだ。


振り返ると、そこに、あの絶世の美女の顔があった。


存在なき、ホログラフスコープで映写された幽霊画像の「絶世の美女」だった。


彼女は言った。


―あなたは、どうして、いのちを無駄にしたのか。死んでしまったのか。心ならずのことであっても、お仕え続ければよかったのに。ー


少年侍は答えて、


―己のいきざまに合わぬ道、生きるくらいなら死んで本望。この世は仮の姿、皆、仮の姿だ。しかも短い。あっという間のこと。夢まぼろし。


(能の話にでるような、室町、戦国時代の死生感が語られた。難しくて彼にはよくわからなかった。)


そしてその瞬きする間のことにすぎない、この世で、何をなすも何をなさぬも、何をなそうとしてなさざるも、すべて幻、そしてすべてはかない、はかない意味のあることじゃ。


死んで生きるも、生きて死ぬも、ひととおりにしか、人はなしえない。


くりかえしはできぬ故、皆意味あることじゃ。わしは死んでそれを知った……すべてさいわいなのじゃ。わしはわがままか? ー



幻灯機で見るような映像。池の上の水生植物群の上で、語り合われるのは、その・・・死生の哲学?



彼女は嘆く。



―わがままです。私はどうなります。私は思う。たとえどんなことでも、人のために生きるのが一番さいわいです。



惨めに貧しく夢やぶれて、そんな目にあわぬまでも人はみな年老いてゆく老醜という残酷に打ちひしがれる。わたしたちの日々、人生は、ときという名の毒薬をもられ続けてゆく、日々、人生。


その中で、たった短い人生で、しかし毒をもられつづけても、強く人は生きることができる、それは何かのために生きようとするから・・・


その「何か」とは、きっと、人です。人は人でありますゆえ、人のために生きるのがさいわいなのです。ー



―・・・それも一理。それもさいわい。しかしみな、短い夢・・・・・・・。ー




この語らいを聞きながら、彼は何か、夢見るような・・・いや、「気を失った夢」をみるような、そんな思いになった。不思議な、えも言われぬ思いになった。



これが行き止まりの池か。



・・・すると、岸辺で、「もーっ」というような、ときの声みたいなのが聞こえた。群雲が月を隠した。そして急に、真っ暗になった。



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