47 それはポール牧じゃない
しかし、誰も出てこなかった。声のかぎりに、大声で叫んだ。
すると突然、しゃっくりでもしたような勢いで、ドアが開いた、いったん大きく開きそうになって、また、閉まりそうになった。
彼はドアに手をかけて、閉まるのを防いだ。
ドアの開いた隙間から、人物が見えた。
白装束の、山伏みたいな衣装で、顔はいやに面長で、両側が、下に引っ張られたように垂れ下がって、眉も目も皺になってしまったような、・・・・・・
この顔は見たことがある。口はへの字で、うすい髭が唇の両サイドに、これまた垂れ下がって・・・
人物は無言で彼を見た。はじめは一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに表情が消えて、うっすらした笑い顔になり・・・
「ポール・牧さん?」
いや、亡くなった芸能人の名前を呼んでも、だれも知らない。ちょっと似ているが、そうではない。この顔は、まぎれもない、
「ぬらりひょん!」
彼は心の中で、そう断定した。
そんなものが現実にいるわけないと思うのだが、目の前にいるこれは、絶対にそうだ。
しかし、この際、そんなことがどうであれ構っていられないのだった、
「助けてください!お医者はいませんか!呼んでください、向こうで、切腹・・・いや、刃物で自殺した人がいる、その首を切り落とした奴がいる、それが、追っかけてくる、お医者、いや、警察、警察、呼んでください!!」
その「ぬらりひょん」は、うすら笑いも消して、聞いているのかいないのか、分かっているのか分からないのか、全く不明な無表情で、こちらの訴えを聞いた。終始無言。
何か考えているのか、いないのか、暫しの時間が経過した後、突然、ぎくりとしたように頷いた。そして彼の視界から消えて、建物の中へとんでいった。
「・・・・」
投げそこなった消える魔球のような間の悪さ。なんだ、いったい・・・
彼は全身の力が抜けて、そこにへたりこみそうになった。
しかしへたり込めなかった。
急に、誰かに、肩をたたかれたのだ!
彼は驚き、大声をあげた。
危うくそこに転びそうになりながら、また振り返ってしまった。
きっと、あの介錯の人影か、いや何かまた新たな物の怪か、どうせろくなものじゃない、おお嫌だ!振り返りながら、そんな考えが、彼の脳裏をクルクル忙しく回った。
そのようにして振り返ると、彼の肩をたたいた何者かが、そこにいた。
それを見て、彼は驚きのあまり、目を皿のように見開いた!




