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ポンド  作者: 新庄知慧
45/88

45 古池の美少年 

「ここが・・・」


運転手は到達した場所について若干説明してくれたが、彼はそぞろに聞いて、タクシーから降りて、あたりを茫然と見回した。小女といっしょに。


背後から運転手の声がした。彼は、ゆらりと取って返し、料金を幽霊のようなしぐさで差し出した。タクシーの運転手は気味悪がり、あきれて走り去った。


彼は、その神秘の池を散策することにした。


街の郊外にある鬱蒼とした黒い森にと山に囲まれた池。


月がばかに明るくて、池もきらきら輝いている。


タクシーの運転手によれば、この池の水生植物群は昭和2年に天然記念物に指定された。


そのほか珍しい植物や貴重な虫たちが棲んでいるので、むやみに足を踏み入れると、市の文化財保護局に処罰されるので気をつけろとのことだった。


これが、彼が夢にまでみた池なのだろうか。心とらわれる何かがあった。


惹きつけられる思い。小女を抱いて、歩き出した。池にそって小道が続いている。時々森の中に道は入り、池が見えなくなるが、少し歩くと、美しい水面がまた現れる。


と、鳥のはばたく音。水のはねる音。


林の中に見える石堂。建物はあたりに無く、外灯もなく、月明かりだけがたよりの散策。


看板がある。何かびっしりと書いてあるが、暗くて読めない。更に先へ進む。


池の向こうに建物が。


お寺のようだった。


またさらに遠くには四角い建築物。病院のような感じがする。


池の上をきしきしいう音、水の音がする。誰かが小舟にのっている。5メートルほどく先の池の岸に小舟は接岸した。つり人か?


そのとき、彼はいきなり、背後から声をかけられた。


突然のことに、心臓が止まるかと思われた。


振り返って見る。


そこには、若い侍姿の、さいごの平家の美少年(平敦盛)みたいな,16歳ぐらいの少年が立っていた。東映太秦撮影所からやって来た役者か・・?ここで撮影か何か・・・?



美少年は声を発した。



「見るべきほどのものは、見つ」



清い水がしたたり落ちたような、潔く美しい声色だった。



「拙者ただ一人、今、その見おさめしゆえ、切腹いたす。おのおの方には検死のお役目ご苦労に存じ候」



「・・・(なにそれ?!)」



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