44 ついにポンド
運転手がさっきから何か話しかけている。
彼はアルコールの酔いもさることながら、妖怪の店での体験の余韻からも逃れられず、意識は朦朧としている。
人の話に受け答えできる状態ではない。返事ともいえない返事をしては、半分居眠りしていた。
そのうち運転手の声が止んだ。すると別の声がしてくる。
「どう?面白かったかしら?」
面白いも何も、圧倒されただけだよ。
「面白いわけないね」
うん。
「だってこの世は、をぐらきものだからね」
何だ、さっき口走った歌、きいてたのか。
そうだ。暗い。だからといって死んでしまえるものでもないんだ。しかしつまらない。堂々めぐりして発展性がない。
しかし、僕はまだ、さっきの店みたいな所へ行くと、非常にエレクトしてしまうし、子供もつくっちゃいないんだから、生物として、やるべきことが残されてる。
しかし、子供つくったりしたら、育てるっていう、やるべきことがまたできるね。これは人間としてやるべきこと。
育てたら、またやるべきことができて、そういう、やるべきことをやり続けて、その都度その都度の宿題を渡されて、そうだ、これまでの僕、そして今の僕の毎日といっしょだ。
その都その都度、ずるずるずるずると、引っ張られて行くんだ。
引っ張るものに引っ張られて…あ。
そういえば、さっきの店で、へんな、引っ張られる感じがあったな、お腹の中から何か温かいものが出そうになって、喉のあたりまできて、そうしたら、何者かがそれを引っ張って、そうしたら、僕自身の体全体が、引っ張られて立ち上がって飛び上がっちゃった。ああいうことなんだ、きっと。
「人生に意味なし?ただの引っ張られ青年?意味なんてない?」
「意味?わからん。そんな問いかけ、下らなくないか。意味って何だい。意味ってどういう意味があるの?」
段々と彼は大声になってくる。
「だめだ。こんなことじゃまた、行き止まりだ。行き止まりだ!」
運転手がまた何か喋り出している。
彼は一体どうやってこの行き止まりをつき抜け出したらいいか分からない。こっち岸の悩み?あっち岸に行けばいい?わからない。それはまだこっち岸に未練があるせいか。行き止まりに突き当たって前に進めない。
「もう進めませんよ!道が無い。この先は、ホラあんた、見えるでしょ!」
「え?」
運転手が怒鳴っている。
「何度も念を押したのに、あんたがこの道だっていうから来たんですよ。ええ?どうするの?これ以上先になんか進めないよ!」
先には行けない。
そう、運転手ががなりたてるのも無理はない。運転手の指差す向こうは道が途絶え、闇の中にぽっかりと、大きな黒い水溜まりが、月の光を反射しながら存在していた。
これで行き止まり。
この先に進もうとするなら、この黒い水溜まりに車もろとも入水するしかない。
これこそ、行き止まりの池だった。




