38 不遇の深掘り
妖怪は言った。
「妖怪といい、乞食といい、私はそんなものが無性に好きで、だから私はそんなものになりたいと思い、事実そうなってしまった」
「ジュリーさんですか、あなた?」と彼がきく。
「ジュリーって、あの芸能人か。ちがうよ。あいつはこの世に居場所があるじゃないか。私は場所がないんだよ。場所を得るべく遇されてないんだな。だから不遇なのだよな」
「あなたの言うことが分からないではない。つまりドロップアウトですね。オフコース、コースから外れて落ちる。何かとても、何もかもに、満足しないんですよね」
「無いんだよ」
「は?」
「無いというべきなんだよ」
「虚無的なんですね」
そんなことではないんだと言いたげに、妖怪いや乞食は、視線を水面の近くから遠くへとすべらせた。
否、という思いが鋭く眼を光らせ、水面には彼の視線によって飛沫がたつのではないかと思われた。
「つまんないのよね」
「それは僕も同感で」
「俺のつまんないは、根が深いんだよ、バカ」
「怒らないで下さいよ」
「いや、つまらないのではない」
「というと?」
「捜している途中なのだ。胡乱に立ち尽くしているのではない。苛立ってるんだ。ぐつぐつ苛立って、かきむしっているのだよ」
「あなた、本当は、ご職業は何なんです」
夕暮れがそろそろ近づいてきていた。
休日もこれで終わり。明日から、灰色の労働の日々、不遇、屈託、エトセトラ…ふっとそんな思いがよぎると、いたたまれなくなる。ああ、典型的の絶命寸前。
「本当の職業。本当の職業というのはね…」
妖怪乞食は自問するように言い始めた。
言いかけて口をつぐんで、小女の方に目をやった。まるで同胞を見るかのような、妙に生暖かい親しみをもって。
「…・じゃあ、またついてきて下さいよ。職業、教えるから」
彼は再び妖怪について歩き出した。




