表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンド  作者: 新庄知慧
37/88

36 河原乞食と妖怪と

いつの間にか川の近くに来てしまった。


街の中央を南北に切り裂いて走るこの川は、この死の都のシンボルでもあり、彼が小女と出会ったのは、この川辺でのことだ。


川を渡る橋の上で妖怪はふと立ち止まった。橋の欄干に両肘をついて、川の流れ、近接している繁華街などを眺めた。


「随分と歩き過ぎてしまったではないか」


「疲れたですね」


妖怪は頬杖をついて、川の流れに見とれるごとく佇んだ。


目をしばたたかせて、川風に酔っているようだった。ここはさすがに少しは涼しい。少しはましだ。


彼は欄干の上に小女を乗せて妖怪の脇に同じようにして頬杖をついた。衰えない陽射しの下に、2人の男と1個の少女が川面を見晴るかし、ボーッと息をつくことになった。


「私は実は乞食なんだよ」


と妖怪は言った。


「乞食。妖怪じゃなかったんですか」


「乞食なんだよ」


「乞食にしては立派な身なりをしてるじゃないですか」


「こんな汚ねえなりが、何が立派な身なりなもんか」


「十分世間に通用する浴衣姿ですよ」


「このなりでは、乞食になれませんか」


「さあ」


「乞食なんですよ」


「……。すると河原乞食とか」


「よく知ってるじゃねえか」


「思いつきを言ったまでですよ」


「川の近くに来たから思いついたのか」


「多分そうでしょう」


「単純だね」


彼は1年程前、就職して早々に見た新聞記事を思い出した。


「河原町のジュリー死す」


河原に近接した繁華街に、今時珍しい専業乞食が住んでいた。


歴史ある街だけに、ここには多くの人間国宝が住んでいるが、乞食業という文化がその専業乞食によって守られていたわけだった。


人々は彼をしてその長髪や風貌から、河原町のジュリーと呼んだ。乞食のプロフェッショナル。有名人であった。


弟子入りしようとする者さえ現れたが、彼はそれを固辞し続けた。もっとも弟子入りしようという人は皆、ひやかしでしかなかったが。


その有名人、河原町のジュリーが、丁度1年ほど前、専業乞食にはあるまじきミスー残飯を食ったがゆえの食中毒で死んだ。


一流料亭のゴミ箱であったポリバケツに首をつっこんだまま野垂れ死んだ。


この男は、その乞食が妖怪となって再びこの世に現れた。そういうわけか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ