表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンド  作者: 新庄知慧
3/88

3 ピーピング・ショー

ただ寝つけないのが苦しくて、体の位置を変えたり、扇風機をつけたり、そんなこんなをしながら、


現れては消える池を見て、「あー」と暑苦しい吐息をつき、腹の上に掛けていた夏用のタオルケットを蹴っ飛ばし、それが空中に一瞬浮いて、すぐに顔の上に落ちてかぶさってきたとき、


条件反射のせいで「行き止まりだ」と呟いた。そして眼から汗のような涙がとめどなく溢れた。


これもまた条件反射のせいだ。本当は感情や心情のせいだったが、条件反射のせいにしておくほうが楽だった。


考えずにすむし、考えたくもないし、土台考えるなどということは、「行き止まりの池」などという語呂からみ て、ろくでもないことになるに決まっている。そうだよな?


運ばれてきたアイスコーヒーは冷たい汗をかく金色のカップに入っていた。運んできたウエイトレスは超ミニで、すらりとした美しい脚をしていて、それを見て彼は興奮した。


若いのだ。といっても、四捨五入で30歳だけど。


30歳?


ぷっつりと思考の糸が切れた。


少しばかり何かもの思いそうになったけれど、歳のことが頭をかすめたとたん、思考の糸が見事にあっさりと切断された。


年齢のことを思い描きそうになると思考がショートするというのも彼の最近の条件反射の特徴だった。


ショートした直後に、一週間前に行ったピーピングショーの光景が出現した。


ウエイトレスの脚がピーピング嬢の肢体を胸のうちに甦らせた。


彼がこれまでに女性の裸体をみたのは3回きり。2回は学生時代に親友たちとともに見たヌードショー、3回目がこのピーピーングショーだった。


世の中の話題の中心からははずれた過去の遺物であり、その名前すら死語といって差し支えない、いまどきまだあったのか、という感じのこのピーピングショーであったが、初めてこれを見る彼にとっては、実に衝撃的だった。


暗くて薄汚い小部屋に客が入り、その部屋の小さなガラス窓から、窓の向こうの小ホールにいる女の子を覗きこむという奴だ。



終始無言のうちにショーは進行して、始め彼は興奮した沈黙に包まれていたが、次第に彼の目の前にあるのは女性とか人間とかではなく、肉体ですらなく、存在ただそれだけ、という感じになっていった。


そのとき、何か音響を耳にしたように思う。あれはーあれもそう、条件反射に即して言うならば、それは何か行き止まりだったのかもしれない。



彼はいやな予感がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ